第10話 熱とLINE


琴音は今日もコンビニライフを謳歌している。朝起きてから、予定があるっていうのは、なんとなく気持ちが締まる感じがしていいと思った。

 予定のために決まった時間に起き、まったりと出掛ける準備をする。それが、歩いて数分の場所でもいい。 

 葉山とも、他の店員とも、毎日行くことでお互い顔を覚えて話すようになり、琴音の毎日は、少しずつ扉が開いていくように視界が明るく広くなっていった。


 最近は公園の通りをぐるっと一周回ってコンビニに到着する。いつものように野菜ジュースを買い、家に着いたら、玄関の上がり框(かまち)に腰掛け野菜ジュースを飲む。

 冷えた野菜ジュースは、冷たいまま琴音の体に染み広がっていく。それが活力になるように、最近の琴音は生き生きしていた。


 変わった時間にコンビニに行くので何度か仕事を聞かれた。今は様々な仕事があり、在宅ワークの人もいるので、どんな時間に行っても不思議ではないが、逆に十時過ぎの決まった時間に行くので疑問に感じたのかもしれない。

 そのときは笑って流した。まだ無職という事は話していない。


 帰ってきて特にやる事は無いけれど、最近は気が向いたらスーパーに行き、料理をしたりすることもある。料理は簡単なものやインスタントだけれど、今まではほぼデリバリーだった彼女には大きな進歩だ。

 テーブルの向こうに葉山が座っていると、妄想しながら楽しく食べてみたりする。

 別にキモくてもいい。自分だけの楽しみなんだから。

 と、琴音は思う。


 その後は、漫画を読んだり、本を読んだり、スマホいじったり、ぼーっとしたり、そうやって一日が過ぎる。


 寒くて急に目が覚めた。お風呂入って、暑かったからエアコン付けたままソファで眠ってしまった。


 なんか身体が痛い。これはやってしまったかも。


 一人でいるときに体調が悪くなると、怖くなる。どんどん知らない場所に沈んでいってるような気持ちになって、自分だけがこの世にいるような気持ちになる。そして、誰かの存在を確認したくなるのだ。


 今感じてるこれは実際の出来事なのか、夢なのか判断出来ず、頭が痛くて、体が動かなくて、辛い中、時間だけが過ぎていく。

 なんとか2日ほど、なにがなんだかわからないままやり過ごして、やっと動けそうになった日の朝、まだ熱もあるので、病院に行こうとしたら、玄関先にビニール袋が置いてあった。


 見慣れたビニール袋に野菜ジュースが二つ。誰が置いてくれたものかはすぐわかった。

 袋から常温の野菜ジュースを取り出すと、折りたたんだ紙が入っていた。


『しばらく店に来てないみたいだったから寄ってみました

気になるのでもしよかったらLINEに連絡ください』


 と、LINEのアカウントと葉山知樹という葉山くんのフルネームであろう名前と一緒に書かれていた。


 琴音は、そのメモを見て熱がまたさらに上がりそうな気持ちになった。とりあえず玄関に戻り、ビニール袋を置く。

 改めて、葉山くんが書いたであろう文字を見返す。そこまで下手ではないが上手くもない。

 へたかわだな、へたかわ。


 一生懸命に書いてくれたんだなと思うと、まだ体調が優れないことも一瞬忘れ、嬉しくて自然に笑みが出る。


 早く病院に行って帰ってからLINEを送ろうか、病院の帰りにコンビニに寄ろうか迷ったが、今日はコンビニに寄らずに後でLINEを送ることにした。


 そうでないと、LINEはもう必要ないですねってなるかもしれない。それは困る。

 葉山くんのLINEはゲットするもんね。

 病院から帰ったら、即ゲット。


 琴音は、この先にもしかしたら何か起きるのかもしれないと、嬉しい予感を感じながら、葉山のメモは無くさないように、財布のいつも使わないポケットに大事に入れて病院に向かった。


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