第30話「以心伝心、暗号電波」③干渉
※今回の物語のボードゲームのルールは馴染みが無いと難しいですが、全て理解出来なくても物語は分かりますので、さらっと流していただいて大丈夫です。
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「それでは、妨害係の方だけ目を開けてください!」
「妨害係の方は、メッセージの受信を妨害したい相手の前に、『妨害電波カード』を置いて、終わったら目を閉じてください。」
明菜はゲーム進行の台詞を言いながら、
「それでは、スパイさんは目を開けてください。」
明菜がそう言うと、今度は
「妨害が成功していたら、自分の手札を一枚捨てて『−50点カード』を受け取ってください。妨害が失敗していたら、妨害係の手札一枚と『−20点カード』を交換して下さい。
妨害が失敗していて、なおかつ送り先のチップが『受信』だった場合は、作成に使った暗号カードと先方の手札の同じ枚数を交換してください。
送り先が『拒否』だった場合は、メッセージはそのまま場に残し、送り先の手札一枚と『−20点カード』を交換してね。」
珠央は明菜の手札と『−20点カード』を交換した後、
明菜は目を閉じながら続けて進行する。
「次に、送り先以外の人の受信チップを確認してください。間違えて『受信』している人がいたら、その人の手札の一枚と『−20点カード』を交換してください。処理が終わったら目を閉じてください。」
珠央は全員の受信チップを確認する。明菜、ヨーコが『拒否』、嵐が『受信』だったので、嵐の手札一枚を『−20点カード』と交換した。
そして、また少しの静寂の後、明菜は進行を続けた。
「パーティ会場の照明が再度復旧しました!皆さん目を開けてください!……あ!!暗号がない!!ってことは、メッセージはちゃんと相手に送信されたんだ!!」
部員達は目を開けると、各々の手札を確認した。
「うわあ!!マジかよ!!マイナス20点来た!!」
「きゃー、私も!!」
「オラ、何ももらえなかったゾ!オラも何かほしかったゾ!!」
「……っていうことは、珠央か那由多くんのどっちかがスパイでどっちかが受信したってこと?しかも、お互いメッセージの内容を理解してるから、しれっと送受信完了したのね!!最近の二人の
明菜がわざとらしく、やれやれと言うジェスチャーをしながら言った。
「明菜さんと日向くんがマイナス20点と嘘をついているという線も捨てきれないので、まだ分からないですよ。」
那由多はいつもより少し楽しそうに笑いながら言った。
「俺が嘘ついてるように見えるのかよ!まあ、この探偵部はやたらと細い線を追う傾向にあるからな!パワースポットが最たる例だぜ!」
嵐もわざとらしくやれやれと言うジェスチャーをしながら言った。
「つぎは線をさがすゲームをするのか?オラもいっしょにやりたいゾ!」
ヨーコはみんなの顔を順番に見て一緒に笑った。
珠央は一連の流れがツボに入ったのか、涙を溜めながらクスクスと声を殺して笑っている。
「それじゃあ、もう一回やろ!次こそスパイの思惑を阻止してやる!」
明菜がそう言いながらカードを切っていると、部室の扉をノックする音が聞こえた。そして、部員達が返事をするよりも速く、
「こんにちはー!探偵部は今日は部活やってるのかしら?……あら?カードゲーム?」
全員が驚いて入口を凝視する中、英語の川上さな子先生が部室に入って来た。
<ヨーコ、そのまま動くな。ぬいぐるみのふりだ!>
「今日は、みんなで探偵としての推理力を鍛えるボードゲームをしています。川上先生はどうされたんですか?」
那由多はにこりと営業スマイルをしながら立ち上がり、入口のさな子先生を応対した。
「十月頭に文化祭があるでしょう?うちの学校の文化部は、文化祭では出し物や展示を行うのが必須だから、この時期に職員会議で部屋割りを決めるの。だけど、これまで顧問が居なかった探偵部は活動を認めて良いのかって話になっててね。それで、私が顧問に立候補したの!」
「!!そうなんですか。お気遣いありがとうございます。」
(厄介だな。何かと活動がやりにくくなるから公式の部活として申請せずに細々とやっていたのに、部員も増えたし目立ってしまったか……)
那由多は表向きには笑顔を崩さなかったが、心の中では舌打ちをした。
「と言うことで、今日からよろしくね!」
さな子先生は笑顔で軽くお辞儀をした。
「よ、よろしくお願いします……!」
部員達はヨーコの処遇やパワースポットの活動の説明の仕方を一瞬で脳内で
「さて、実は先生も探偵に昔から興味があったんだけど、そのゲーム一緒にやってもいいかな?」
そう言うと、さな子先生は部屋に端にあった丸椅子を持って来て、嵐が座っている一人がけソファの隣に置いて座った。
「あ、あの、さな子先生、その椅子座りにくいんで、こっちどうぞ……」
嵐は引き続きしどろもどろな様子で言った。
「え、そう?ありがとう。じゃあお言葉に甘えて。」
さな子先生は嬉しそうに嵐と座席を交代する。
「じゃあ、もう一回さな子先生も入れて続きやりましょうか!」
明菜はヨーコ以外の人に必要なカードを配り、さな子先生に簡単にルールを説明した。
「アキナ、オラのカードがないゾ!」
硬直していたヨーコが喋り出し、隣に座っている那由多がヨーコの口を手で押さえる。
<ヨーコ!静かに!!>
明菜の方を向いていたさな子先生がびっくりしてヨーコの方を見る。
「ぬいぐるみがしゃべった!?」
「あ、あのこれは、録音機能付きのぬいぐるみで、さっきのゲームで日向くんが言った言葉を録音しちゃってたみたいです!」
「最近少し故障気味で、勝手に電源が入ってしまうようです。」
「アキナ、続けていいゾ!今度はちゃんとオラのカードあるゾ!」
珠央と那由多が誤魔化し、嵐が少し恥ずかしそうにヨーコの真似をした。
「探偵部だから、悪の組織を盗聴する時とかに使うのかしら?ここは他にも色々と変わったアイテムがあってワクワクするわね!」
さな子先生は部室を見回した。那由多は珠央に目配せをしてヨーコの見張りを任せると、さな子先生にジャスミンティーを入れながら、絵巻物や呪符などを静かに仕舞った。
♦
「パーティ会場の明かりが復旧しました!みなさん目を開けてください!」
さな子先生を加えた二ゲーム目が始まり、先ほど同様に明菜が進行をしている。
全員が目を開けると、談話スペースのテーブルの上には
『昨日』『山の絵文字』『彦』『耳の絵文字』『私』『コツ』『そりの絵文字』『立候補♡』
というメッセージが置かれていた。『彦』『そりの絵文字』『立候補♡』の3枚は『暗号空白カード』に手書きで書かれている。
「すごい!!八枚も使ってる!!超大作の暗号!!」
「これは、結構そのまま文章になっていそうですね。『昨日山彦聞いた。私コツソリ立候補♡』でしょうか?そして、『私』と手書きの『♡』から、スパイは女性という印象を受けますね。ミスリードを狙ったのかもしれませんが。」
「那由多解読員、すごい!!」
珠央はパチパチと拍手をした。
すると、嵐が急にガタリと慌てた様子で立ち上がった。
「あ、あのさ、このメッセージって、『受信』か『拒否』以外に『保留』ってあったっけ?」
「?スパイの暗号は電話の取り継ぎじゃないんだから、保留は出来ないよ!」
「じゃあ、俺、急用思い出したから、ちょっと保留!」
「え!何、急にどうしたの?」
嵐は慌てて荷物をまとめて帰り支度を始めた。
――その時、部室のどこかで、チリッと静電気が走ったような音がした。
「――集え。私の――もとに。
そして、今度は部室の奥のガラクタ置き場から大きな音が聞こえた。
部室にいる全員が驚いて音がした方を見ると、部屋の隅に放置されていたブラウン管のテレビ画面が点いていた。
画面は砂嵐が覆っているが、それを押しのけるように、ノイズ混じりの映像が断片的に映り込む。やがて「ザザッザザッ……」という不穏な呼吸のような雑音が一定のリズムに安定すると、画面にはコウ・ヨノビ・ユキが現れた。
そして、それとほぼ同時に、耳を
那由多は矢のようにソファを飛び出して、勢いよく窓を開けた。
那由多が凝視する先、光印学園から南東に見えるテレビ塔の上に……何かがいる。
「な、なんだ、あれ!?生き物?人じゃないよな!?」
遅れて窓に走って来た嵐が言った。
窓に集まった皆が息を飲み、遠くに見えるテレビ塔の先端に目を凝らしていると、今度は静寂を切り裂くように、那由多のスマホの着信音が鳴り響いた。
「那由多さん!!出ました!!テレビ塔に出ました!!」
那由多が通話ボタンを押すや否や、この探偵部の外部スタッフの
「モニターには何が見えますか?」
「始めに穴から出て来た時は蛇かと思ったんですが……猿?いや、虎か?」
「出て来た何かは三匹居るんですか?」
那由多が確認すると、海崎の声が自信なさげにトーンを下げて言った。
「……いえ、一匹なんですけど……モニターの画面表示がおかしくなったのかな?蛇と猿と虎が混ざって見えます!!」
「それって、もしかして……
那由多の隣でスマホから聞こえる海崎の声に耳を凝らしていた珠央が、なぜか少し嬉しそうに叫んだ。
「……
那由多がもう一度テレビ塔を凝視すると、先端にしがみついている何かの体から黄金の光の粒がキラキラと舞っているのが見えた。
※ボードゲームのルール説明部分はこちらに後日画像を添付予定です!もうしばらくお待ちください。
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