王道の展開と、より洗練されていく世界観
- ★★★ Excellent!!!
物語は今回、第一部からの旅路を受けて、ヨレン王国へと舞台を移します。
これまでの執筆時における現実世界の参照と同じく、登場人物の名前から明らかにギリシャがモチーフとなっていることがうかがえます。
そのため、作中に登場する創作の神々についても、神話体系を軽く整理してみました。
• ペリューン=魔法の神
• タラ=運命の女神
• ヤルハ=雷神
• ルーン=月の神
• マガファ=邪神/古代の戦神
• マギフス=マガファに仕える眷属・骨竜王
物語の主軸は一見すると複雑に見えますが、一度通して読んでみると、とても王道らしい筋立てであることに気づかされます。
ショールとテオは、いわば二人の主人公と言えるでしょう。さまざまな挫折を経験してきたテオが再び立ち上がり、本来の力を発揮していく過程は胸を打ちますし、ショールは「星の影」の炎によって、邪神とその眷属にまつわる穢れを浄化していきます。
敵対者の一人である暴君クレトスですが、正直なところ魅力はあまり感じられません。唯一評価できるとすれば、悪に徹しきっている点でしょうか。ただ、どうしても中ボス止まりの小物感は否めませんね。
一方で、アブロヌの魔女はまさに黒幕らしい風格を備えています。そして、ショールとのあいだに決して相容れない深い因縁があることも明かされ、ショールが「星の影」として地上を歩む理由が、彼女たちによるこの時代の混乱と密接な関係にあることがわかってきます。
この世界の人々は、どうやら非常に長命のようです。水晶の奥方も、賢者フ・クェーンも、いずれも二百年前の歴史を知る証人ですし、アブロヌの魔女たちが依然としてこれほど活発であることを思うと、あの大戦は本当の意味では終わっていないのだと感じさせられます。
さて、ここからは物語に登場する人物について触れてみたいと思います。
テオの物語は胸が締めつけられるようでした。もしリディアとショールの助けがなければ、きっと彼は闇へと堕ちていたことでしょう。幸いだったのは、テオを傷つけた人々がきちんと自分の過ちを認めたことです。黒幕に操られていたことを言い訳にせず、正直に頭を下げ誤りを認めた姿勢はとても誠実でした。
人は年を重ねるほど、かつて犯した過ちに対して謝ることが難しくなっていくものです。その意味でも、最後に両親が送った手紙はとても貴重で、テオの心が過去のしこりから完全に解き放たれるための大きな要因だったように思います。
対して、彼の先祖であるエウメロスは、あまりにも悲劇が過ぎます。テオとの違いは、彼に起きた出来事がほとんど取り返しのつかない悲劇であったことです。
のちに英雄として讃えられ、妻との子どもも無事に育てられたとはいえ、どこかやりきれない思いが拭えませんでした。最後に、妻がずっと彼を待ち続けていたと明かされたことで、ようやく少しは評価が回復しましたが……。そうでなければ、作中の神話に登場する人物たちは、私の目には「碌でなし」としか映らなかったかもしれません。
これまでの物語を通しても、「人間らしさ」というものが深く感じられます。
神々の時間感覚は、もともと人間の尺度では測れないものです。数百年、数千年といった歳月も、彼らにとってはほんの一瞬の煙のようなものでしょう。さらに、彼らは本来、異なる次元の世界に過度に干渉することができないため、使者同士が代理として争う――そんな構図は日常茶飯事なのだと思います。
その一方で、人間という存在はまさに「多彩多様」。欲望の広がりは果てしなく、だからこそ「現実は想像を超える」という言葉が生まれるのでしょう。人間の生活圏にはほとんど関わらない異形の存在よりも、むしろ生きている人間のほうが、はるかに恐ろしいと感じる場面も少なくありません。
教会の腐敗や、闇の勢力が国家にまで浸透していく様子は、その一つの象徴と言えるでしょう。もっとも、彼らがたどった末路は、死よりもなお過酷なものだったようですが……これも一種の因果応報なのかもしれません。
これからの物語は、ショールにゆかりのある土地を巡る旅になっていくようですね。また「英雄集め」のような楽しい展開になるのでしょうか。七人そろえば神龍が出てきそうな……いえ、さすがにそれは別の作品でしたね。おそらくペリューンが何か大きな場面を用意しているのでしょう。
ショールは行く先々で「大騒動からの平定」という流れを起こしてしまうので、陰謀を払う存在でありながら、どこかで「厄介な人」と呟かれていそうです。
どの旅路も世界観を少しずつ形作っていき、まるで世界のパズルの欠片が集まっていくようでした。次にどの欠片がはめ込まれるのか、とても楽しみにしています。