歌狐の巫女は歌を禁じられ、転生後はバンドで頂点極めます!

国府春学

第1話

「砂陽眼(すなひめ)。おまえは恋の歌を歌うことを禁じられた身だ。忘れたのか? 掟を守れないようならば、その声はあずかっておく」


 神は怒りに満ちた声で告げて、村を守る巫女から、「言葉を発する能力」を奪った。

 神託を受け人々に伝える力もなくなり、巫女はただの乙女におとされた。巫女の内に収まっていた不思議な力は、七色の光を放つ球となり、神の傍らにいた白金色の狐の身体に吸い込まれた。


「六道輪廻を経て反省するがいい。時を越え、おまえがじゅうぶんに反省したときに、その声と力をおまえに返してやろう」


 規則にそむいて人間を愛した報いだ、と神は言い残して、巫女だった娘の前から姿を消した。


        ♢


(何なの、今の夢……)


 妙に鮮明で、まるでお告げか前世の記憶のようだった。


(神様なんて、縁もゆかりもないのに)


 十六歳の為音(いおん)は、顔を洗って、鏡に映る自分の顔を見る。細い顎、つりがちな切れ長の瞳、シャープな印象の鼻に、淡い色の口唇。ツインテールの金色の髪は艶やかな光沢を帯び、白い肌に似合っている。

 中学から引きこもりで、畳の部屋に閉じこもっている自分は、神の目にも留まらないはずだった。


 春鐘為音は、幼い頃に何らかの事情で声を失い、幼稚園や学校になじめずに、引きこもりがちな生活を送っている。喉やその他、身体には異常がないのだが、なぜか声が出ない。

 

 四歳頃まではしゃべれていたようだが、どうして急に声を失ったのか、育ててくれた祖母は口を閉ざして教えてくれなかった。為音自身も、しゃべれていたころの記憶はまったくないので、自分に何があったか思い出すこともできない。

 

思い出したって、しゃべれるようにならないなら、意味がないような気がした。たとえ声が出たとしても、引っ込み思案なのはすぐに治りそうにならないから、友達も作れないだろう。


(どうしようもないことだから、神様にとられたってことにして、納得したかったのかな)

 着替えて、パソコンを起動しながら、為音は自嘲した。


 彼女が生まれ育った萩波村には、令和の今でも、神隠しの噂や、妖怪の目撃談が普通に存在している。政治家を語るのと同じように、村人は神について話す。

 迷信深いお年寄りが多いからかもしれない。為音たち若い世代は信じていないが、彼らは本気で、神に祈りを捧げる生活を送っている。



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