シナプスの空で
ほしきれ
プロローグ 過飽和の空
空は、情報でいっぱいになっていた。
星でもネオンでもない。都市の上空に広がるのは——人々の記憶の残響(エコーズ)だ。
喜び、後悔、言葉の断片。
それらが光の糸となって、空に網目のように張り巡らされている。
「——エコーズとは、人の心に浮かんだ記憶や感情が光になって空に残る現象のことだ」
教壇の前で、教師が黒板に映し出された映像を指し示した。
網のような光が都市を覆い、街の上空にドームを作っている。
「もともとは孤独を救うために作られた仕組みだ。大切な人の声や思い出を共有できれば、人は一人じゃないと思える。だが今では——安心のための監視にもなっている」
教室がざわめいた。
隣の席のやつが友達にひそひそ笑い、前の席の女子は小さくため息をついた。
みんな、ただの「授業」として聞いている。
教師は声を落として続けた。
「ただし副作用もある。エコーズに過敏に反応しすぎる体質——過剰受信症候群(オーバーレシーバー)。百万に一人の割合で生まれると言われている」
黒板には、発症者が感じている映像のシミュレーションが映る。
隣に立っただけで相手の記憶の光が押し寄せ、音や映像が頭に響く。
強いものは喉に流し込まれるように感じ、息が詰まる。
人によっては幻覚や錯乱を起こし、社会生活に支障をきたすという。
俺はその瞬間、心の中で呟いた。
——俺も、その一人だ。
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