あの子のいる森

逢坂らと

誕生日

その先は、青空がきれいだった。

親友がいた、家族がいた、

学校の先生だって、飼っていた犬もいた。

いつもの景色と何1つ変わっていなかった。なんだか少し、安心した。

けれと別のものを期待していた自分も

きっと何処かにいた。


自分はいつも通りの生活をおくる。

ただ1つだけ、変なところがあった。

日めくりカレンダーがずれていること。

学校に行く準備をして、歩いて歩いて、

自分の机に向かう。

ふと目をやると、

机に寄せ費きが置いてあるのが見えた。

「お誕生日おめでとう」

おめでとう、かやでちゃん。

良かったね、かやでちゃん。

皆んなからのサプライズだよ。

嬉しい?かやでちゃん。

嬉しい?ね、嬉しい?

ねぇ、かやでちゃん。

嬉しいの?ねぇってば。聞いてる?ねぇ。

…大丈夫?聞いてる?

嬉しいの?嬉しくないの?



嬉しかった。

今日が誕生日だったなんて、

自分でも忘れていた。

ステップを刻みながら雨上がりの道を歩き、

家に駆け込んだ。

母が、タコを切っている。

玉子焼きでも作るのだろうか。

母が、卵を1つ床に落として割った。

2つ、落とした。3つ、4つ、5つ。

5つだけだった。

5つの卵を落として、割った。


これが唯一の、私の誕生日。

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