車で

(SE 車のドアを閉める音)


道路脇に停めてあった軽トラに、オレたちは乗り込んだ。運転席はナナで、助手席がオレだ。



(SE 軽トラ エンジン音)



久しぶりの軽トラに、あと、ナナの優しい水色のワンピースと軽トラのギャップが地元に帰ってきた感をしみじみと感じた。



「おばあちゃんに頼んで、軽トラ貸してもらったんだ。他の車は空いてなくて……ちょっと後ろにいろいろ乗ってるけど、気にしないで」



後ろの荷台を窓から振り返ると、畑の用具やらなんやらが載せられている。こんな光景も、地元に帰ってきた感があってなんだか嬉しくなった。



「あ、うん」


「あと、荷物と、お弁当……持ってもらってもいい?」



渡されたのは、弁当の入った可愛らしい保冷バッグと、小さなショルダーバッグ。軽トラは荷物を置く場所があまりなく、助手席に置きたいけれどオレが乗っているため、必然的にオレの膝の上になる。



昔は、なんかのキャラクターの入ったリュックを自転車の前カゴに投げるように入れてたなぁ……


「うん」



ナナは慣れた様子でアクセルを踏み、軽トラはスムーズに動き出す。




「運転……上手いね」


「う、うん」


「いつも運転、してるの?」


「ん?う、うん、たまに家族に借りて……」





オレはナナのハンドル捌きを見ながら思う。

大学生進学を機に、オレはここから離れ上京した。今は勉強やバイトに忙しく、帰ってくるのも年数回だ。こうして幼馴染みの地元での生活を見ていると、上京せずここで暮らしこういう生活をしていた……そういうifの世界を想像してしまう。



どっちが正解かなんてわからないけど……




「あの、先輩」


「あ、ごめん!ぼーっとしてた。何?」


「あ、あの、昨日の、あの袋のお菓子……」


「昨日の……あ、ごめん!母さんにそのまま渡しちゃったから」


「あ、じゃ、じゃあ、いい……」



そこで会話は途切れた。




沈黙が気まずく、オレは窓から外を眺めていた。


時折葉の間から見える、夏前の太陽が眩しい。

無言のオレたちを乗せたまま、軽トラはスムーズに山を上っていく。




程なくして、開けた場所に出た。平日なこともあって、そこはガラガラの駐車場だ。


入場ゲートなんかがある訳ではなく、車はスーッと進んでいく。

ナナは駐車場から出やすそうな場所に車を停めた。駐車がスムーズだ。



そういえばあの頃はみんな自転車だった。前カゴに荷物を突っ込んで、あーでもないこーでもないとわーわーしゃべりながらガタガタ道を進む。そして山道の途中で疲れて、自転車を降りてえっちらおっちら押していくのが定番だった。



車だとこんなに近かったのか……



いつの間にか大人になっていた自分に驚きつつも、昔の思い出が鮮明に蘇ってきてなんだか懐かしい気持ちになった。





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