ステータスALL0、Zランク認定された俺、実は神に選ばれてました

KABU.

第1章「最弱の転生者、Zランク認定」

第1話:ステータスALL0、Zランク認定

 ――目を開けたとき、世界は白に包まれていた。


 風も音もない。

 ただ、光だけが無限に広がっている。


「……どこだ、ここ。」


 自分の声が吸い込まれて消える。

 立ち上がろうとすると、足元が何かに触れた感覚があるのに、地面は見えない。


(……夢か?)


 そのとき。


「――ようこそ、天城朔夜。」


 振り向くと、光の中に人影があった。

 長い金髪。淡い蒼の瞳。人間とは思えない、透明な存在感。


 女神だった。


「私は転生の門を司る者。あなたは、選ばれました。」


「……転生? 俺、死んだのか。」


 頭に浮かぶ最後の記憶。

 会社のデスクでの徹夜、崩れ落ちた瞬間、冷たい床の感触。


「そう。心臓の停止を確認しました。」


「そんな事務的に言うなよ……。」


「ですが、終わりではありません。あなたには“もう一つの世界”で果たすべき役目がある。」


「役目……?」


「あなたは、“ゼロ”の器を持つ者。」


「ゼロ?」


「全ての力を拒まれ、全ての力に成り得る者。神々の秩序の外にある特異点です。」


 そう言って、女神は手をかざした。

 光が俺の身体を包み、目の前に文字が浮かぶ。



【ステータス確認】


 名前:天城朔夜(あまぎ さくや)

 年齢:18

 職業:未定

 HP:10

 MP:10

 攻撃:0

 防御:0

 魔力:0

 敏捷:0

 幸運:0


 ――ステータスALL0――


 称号:【Zランク認定】



「……え、待って、全部ゼロ?」


「はい。あなたの魂は何も持たず、何も失っていません。だからこそ、“何にでもなれる”のです。」


「いや、それはポジティブに言いすぎだろ!」


 俺の抗議を無視して、女神は淡く笑った。


「この世界では冒険者として生きてください。あなたの“ゼロ”が、やがて全てを変える。」


 その瞬間、視界が光に呑まれた。



 次に目を開けた時、そこは――眩しいほど青い空の下だった。


「……ほんとに転生しちまったのか。」


 周囲は草原。遠くに城壁のある街が見える。

 風が吹き、草が揺れ、空気がやけに澄んでいる。


 手を握ると、確かに“生きている”感覚がある。


(ゲームの中みたいだな……。)


 試しに呟いてみる。


「ステータスウィンドウ、開け。」


 目の前に青い光が広がる。

 さっき女神に見せられたのと同じウィンドウが浮かんだ。


「……ALL0、変わってねぇ。」


 俺は頭を抱えた。

 そのとき、遠くから馬車の音が聞こえた。


「おい、そこの兄ちゃん! ここで何してんだ!」


 通りかかった商人風の男が声をかけてくる。

 背後には立派な門が見えた。


「ここは……?」


「リディア王国の南門だよ。見ねぇ顔だな、新入りか?」


「まぁ、そんなとこです。」


「なら冒険者ギルドに行くといい。登録すれば食うには困らねぇ。」


 ――冒険者ギルド。

 異世界といえばまずそこからだろう。


 俺は礼を言って街へ向かった。



 街に入ると、人、人、人。

 剣士、魔法使い、獣人、エルフ。まさに“異世界”。


 広場の中央に、大きな看板が掲げられた建物がある。

 「冒険者ギルド・リディア支部」


 重い木の扉を押し開けると、中は賑やかだった。

 酒の匂い、笑い声、怒号、剣の金属音。

 まるでRPGの中の酒場そのものだ。


 カウンターに近づくと、金髪の受付嬢が笑顔で迎えた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。登録希望ですね?」


「はい。」


「ではこちらに名前を。……天城朔夜さん、ですね?」


 彼女は水晶の球を取り出した。


「この《鑑定球》に手を置いてください。魔力を測定します。」


 俺が手を乗せると、球が淡く光り……すぐに色が消えた。


「……?」


 受付嬢の眉がピクリと動く。


「ど、どうかしました?」


「え、えっと……ステータスが、すべて……ゼロ、です。」


 ギルド内の空気が変わった。

 酒を飲んでいた男たちが一斉にこっちを見る。


「ゼロだと? まさかの無能じゃねぇか!」

「ステータス偽装だろ? そんなやついねぇよ!」


 笑い声が広がる。


「……特殊認定が出ています。」


 受付嬢の手が震えていた。


「“Zランク”――だそうです。」


「Zランク? そんなの聞いたことねぇぞ!」


 その時、奥から声が響いた。


「久々に出たな、“ゼロの器”か。」


 現れたのは、白髪の老人。

 ギルドマスターだ。


「天城朔夜。お前のランクはZ。

 最低でも最高でもない。“未知数”のランクだ。」


「未知数?」


「ゼロとは無。無は何でも生み出す土壌だ。

 だが同時に、何もない危うい存在でもある。」


 そう言って老人は笑った。


「――生き残ってみせろ。Zランク。」


 ギルドカードを受け取った俺の名の下には、確かに刻まれていた。


【ランク:Z】


 黒いカード。誰のものとも違う。

 まるで“呪い”のように重かった。



 その夜。

 街の外れの安宿で、俺は天井を見上げながらため息をついていた。


「ステータスALL0にZランク……前途多難だな。」


 そのとき。


「……だれか、助けて……」


 外から、微かな声。


 俺は反射的に窓を開けた。

 月明かりの下、白い修道服の少女が倒れていた。


 銀の髪、透き通る肌。

 その手には、光る紋章。


「おい、大丈夫か!」


 駆け寄る俺を見て、少女は薄く目を開けた。


「……あなたの、魂……ゼロの光……」


「……は?」


 そのまま彼女は意識を失った。


 俺は思わずつぶやく。


「……神の声が聞こえる少女、ね。まるで物語だな。」


 そうして、俺の物語は――静かに幕を開けた。

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