異世界に勇者として召喚されたもののお供の女戦士が強すぎて俺の出番がない

間咲正樹

異世界に勇者として召喚されたもののお供の女戦士が強すぎて俺の出番がない

「ユウトー! その辺を散歩してたら伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンがいたから、念のため倒しておいたよー」

「フィア!?」


 身の丈の10倍はある巨大なドラゴンの亡骸を片手で軽々と掲げながら、フィアがこちらにテクテク歩いてきた。

 嗚呼。

 またそんないかにも強そうなモンスターを、コンビニに行くぐらいの気軽さで倒して……。

 勇者は俺なのに。

 どうしてこうなっちゃったんだろう……。


 話は1ヶ月程前に遡る。


 どこにでもいる平凡な高校生の俺は、ある日突然謎の光に包まれたかと思うと、いつの間にか中世のお城の様な建物の中に立っていた。


「おお勇者よ、よくぞ参った。この世界は今、長年の眠りから覚めた魔王の脅威に晒されておる。そなたが魔王を倒し、この世界を救うのだ」

「え?」


 目の前にはこれまたテンプレな王様が鎮座しており、ブラック企業も真っ青な仕事の振り方をしてきた。

 ああ、なるほどね。

 これが最近流行りの、異世界召喚ってやつか。

 まさか俺がそれに巻き込まれるとはなぁ。

 人生何が起きるかわからないもんだ。

 だが、更に詳しく王様の話を聞くと、どうやら俺が元の世界に帰るには、魔王を倒す以外に方法はないとのことだった。

 まあ、どうせ元の世界じゃこれといって何もいいことがなかったんだ。

 ここは一つ、パパッとこの世界を救って、勇者っていうハクをつけてから帰るのも一興だろう。

 大体この手の世界は、勇者に甘くできてるもんだ。

 RPGは普段からよくやってるし、その要領でやれば、すぐに魔王くらい倒せるだろう。


「いいですよ。俺が勇者として、この世界を救ってみせますよ」

「おお! これは頼もしい。そなたが世界を平和にした暁には、この世界のものを何でも一つ元の世界に持って帰ってよいぞ」

「あ、それはどうも」


 へえ、何を持って帰ろうかな。

 やっぱ伝説の剣とかかな?


「ではそなたに旅のお供を一人つけよう。これが我が国一番の戦士である、フィアだ」

「やっほー! 戦士のフィアだよ、よろしくね! あなた名前は何ていうの?」

「ん?」


 それがフィアとの出会いだった。




 それから1ヶ月程が経った現在、俺は安請け合いをしてしまったことを、毎日のように後悔していた。

 何せフィアがあまりに強すぎて、まったく戦闘で俺の出番がないのだ。

 その自慢の大剣で、どんな堅強なモンスターも一撃必殺の一刀両断。

 フィアは我が国一番どころか、間違いなくこの世界で一番の戦士だった。

 ハッキリ言って、フィアがいれば俺がいなくとも500%この世界は救えるだろう。

 この分でいけば、間違いなく魔王も一撃だろうからな。

 あーあ、この世界でくらいはヒーローになれるかと夢想したのに、これじゃ同級生よりも一足早く、社会の厳しさを体験しただけじゃないか……。


「……ハァ」

「ん? どうしたのユウト、そんなクソデカため息ついて。お腹でも空いた? さっきの伝説の魔獣アブソリュートヘルフレイムドラゴンの肉、ちょっと削いでおけばよかったね」

「……いや、別に腹が空いたわけじゃないよフィア。――ただ自分が情けなくてさ。俺は一応勇者なのに、強さじゃフィアの足元にも及ばないんだから」

「そんなことないよ! ユウトは強いよ! ――二人でこの冒険を始めた日、ユウトは私を守ってくれたじゃん」

「ああ、あれか」




 フィアと城から出発した直後のことだった。

 運悪く、レアモンスターであるホブゴブリンに遭遇してしまったのだ。

 ホブゴブリンは全身が優に3メートル以上はあり、手には夥しい血が付いた大振りな斧を握っていた。

 瞬時に今の俺ではこいつに敵わないことを察知したが、逃げるわけにはいかなかった。

 何故なら俺は今、女の子と一緒だからだ。

 勇者として、そして男として、この子のことだけは命に代えても守らなければならない!


「フィ、フィア! こいつは俺が食い止めておくから、君は逃げるんだ!」

「っ! ……ユウト」


 俺は膝をガクガク震えさせながらも、ホブゴブリンの前に立ちはだかった。




「でも結局、あのホブゴブリンはフィアが瞬殺したんだから、俺は何もしてないよ」

「ううん、そんなことない! あの時のユウト、とってもカッコよかったよ! ――私は孤児でね、生きてくためには強くなるしかなかったから、昔から剣の修行ばっかりしてて、誰からも女の子扱いなんてされたことなかったんだ……。だから、ユウトが私のこと守ってくれた時、泣きそうなくらい嬉しかったんだよ!」

「そんな、大袈裟な……」


 それに、あの時の俺はフィアがここまでのチートキャラだとは知らなかっただけだ。


「あの日以来、今度は私がユウトのことを守るって決めたの! だからこれからも、じゃんじゃん私のこと頼っていいからね!」

「フィア……」

「そ、それでね……いつか世界を平和にできたら、その時は私をユウトの…………お、お嫁さんに……」

「ん? 何か言った?」

「う、ううん、何でもないよ! 気にしないで!」

「あ、そう」

「アハハハ」

「……」


 なんてね。

 とっくの昔に、フィアの俺に対する気持ちなんて気付いてたよ。

 いくら鈍感な俺でも、こう露骨に毎日好き好きアピールされたら流石に気付く。

 ……でもなあ。

 告白は絶対俺からするって決めてるんだ!

 何せ、好きになったのは、俺のほうが先なんだからな!

 ――所謂一目惚れだった。

 王様から最初にフィアを紹介された時、雷に打たれた様な衝撃が走った。

 燃えるように紅くて長い髪。

 クリッと大きな深いエメラルドの瞳。

 笑った時にチラッと見える八重歯。

 そして母なる大地の如く豊潤なオッパイ!

 母なる大地の如く豊潤なオッパイ!!!

 大事なことだから二回(ry

 正直ホブゴブリンからフィアを守ろうとしたのも、好きな女の子の前でカッコつけたかったからというのも、理由の一つだ。

 だからこそ。

 だからこそ告白は俺のほうからしなくてはならない!

 ……だが、それは俺がフィアよりも強くなってからだ。

 だって自分の彼女に守ってもらってばかりの彼氏なんて、そんなのカッコ悪いじゃん!

 ――いつになるかはわからないけど、絶対フィアより強くなって、フィアに告白する。

 それが今の、俺の目標だ。

 世界を平和にした時に、元の世界に持って帰れる報酬としてフィアに一緒に来てほしいと言ったら、フィアは付いて来てくれるかな?


「あ。あんなところに、伝説の上級魔獣インフィニティデスフレイムドラゴンがいる。念のため倒しておくね。ちぇすとー」

「え!? ちょ、フィア!!?」


 小高い丘程もある巨大なドラゴンさえも一瞬で真っ二つにしているフィアの背中を見て、こりゃ告白できるのは当分先になりそうだなと、天を仰ぎながらため息を一つ零した。


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