遺星
苗木
一
これは、誰かが誰かへ宛てた遺書である。差出人も受取人も今ではわからない。ただ、紙に残された言葉だけがここにある。私はそれを、今からそのまま記す。
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あなたへ
これを読んでいる頃、
人間は不思議な生きものです。愛だの友情だのと口にしながら、腹の底では他人を利用し、踏み台にし、奪い取ることを恥じません。私も例外ではありませんでした。過去の罪を語ろうとする今ですら、どこかであなたの同情を欲している自分に気づきます。
けれども人間は弱い。死は他人事ではなく、いつもすぐ隣にあって、しかも生きることと同じくらい滑稽で、くだらないものです。
この手紙を書くのは、あなたへの最後の告白であると同時に、私自身の醜さを示すものでもあります。きれいな人生などなかったことの証明です。そして、私が私であるために最後にできる、ささやかな贖罪でもあります。
過去を振り返れば、私は誰も信じられず、誰も頼れない孤独の中にいました。あのあと、世界は冷たく、周囲の笑顔はすべて虚構に見えました。信じていた友人たちは、都合の悪い真実を聞くや否や、音もなく消えていきました。誰も助けてはくれませんでしたし、助けを求める勇気もありませんでした。生きること自体が馬鹿馬鹿しく思え、死すら遠くない選択肢として頭をよぎったこともあります。
そんな私の前に現れたのが、あなたでした。あなたの声も、笑顔も、存在そのものが、まるで別の星の光のようで、冷え切った心に温度を与えてくれました。私はその光に甘え、あなたをそばに置くことで自分の孤独を埋めようとしていたのかもしれません。
あなたが言ってくれた「大切な人はいついなくなるかわからない」という言葉を、私はその時、本当に理解していませんでした。理解していたなら、きっと違う選択ができたはずです。それでも、私の弱さは変わらず、いつもあなたのそばに居続けることで安心しようとしていました。自分の罪や過去を少しでも忘れられるなら、あなたを利用してもいいとさえ、心の片隅で思っていたのです。
この先を読めば私の弱さと
あなたがこの手紙を読み終えるころ、どうか笑ってください。物語はまだ続くのですから。
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