第34話 ドラゴンとの遭遇

 女性の悲鳴を聞いて、ソレイユ達は平原を走っていった。

 声の主はすぐに見つかった。

 四人組の男女が平原の真ん中で魔物と戦っていたのだ。

 男女は金属やレザーの防具を身に着けており、手には槍や剣を手にしている。

 格好からして同業者……つまり、探索者であるとわかった。


「アレは……?」


「「ドラゴンッ!?」」


 ソレイユが眉を顰め、リュナとシノアが同時に叫んだ。

 見知らぬ探索者達を襲っているのは空を飛んでいる大きなトカゲ。背中には大きな翼が生えており、全身が緑色の鱗で覆われている。

 黄金色の瞳からは強烈な殺意が放たれ、裂けた口からは発達した牙の一本一本がまるでナイフのよう。

 探索者もそうでもない人間も、誰もが知っているであろう有名な怪物……ドラゴンだった。


「ドラゴンッ……ドラゴンよ! シノア!」


「はい、ドラゴンです……リュナ様!」


 思わぬ遭遇にリュナとシノアが何故か興奮している。

 確かにドラゴンは珍しい魔物だのだろうが……それにしても、ここまでテンションが上がるものだろうか?


「どうした、二人とも」


「ソレイユさんっ……ドラゴンを倒してください! どうかお願いします!」


 リュナがソレイユに訴える。

 ソレイユはいつになく強い主張を不思議に思いながら、言われたとおりにすることにした。


「まあ、別に構わないけど……とりあえず斬っておこうか」


「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ドラゴンが絶叫し、四人組の探索者に向けて牙を振り下ろす。

 いつから戦っていたのかは知らないが、四人組はすでに満身創痍といった有様。

 身体のあちこちに傷を負っており、今にも倒れてしまいそうな姿である。


「フッ!」


 ソレイユが一息に距離を詰めて、高々と跳躍。

 今まさに振り下ろされた牙を刀で弾いた。


「なっ……!」


「だ、誰だ……!?」


 助けられた探索者が驚き、目を見開いた。


「助けに来た。下がってろ」


 ソレイユは無駄なことは一切言わず、振り返ることすらしない。

 地面に降り立ち、刀の切っ先を空中にいるドラゴンに向けた。


「有り難い……感謝する!」


 探索者達が身体を引きずるようにして下がっていく。

 地面には血の跡が残っており、本当に危機一髪の状況であったことを物語っていた。


「さて……初の竜殺しか。ワクワクするな」


 ソレイユが牙を剥いて嗤った。

 伝説に語られる英雄の偉業といえば『ドラゴン退治』である。

 名のある戦士や剣士はいずれもドラゴンに挑み、勝利して名を轟かせてきた。

 そんな英雄達と肩を並べることができるなんて心が躍る。


(海にいたグレナタティアも竜といえば竜だが、『ドラゴン』って感じじゃなかったもんな。どちらかと言えばデカい海蛇だったな)


「来いよ。その翼、斬り落としてやる」


「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 啖呵を切るソレイユに、ドラゴンが咆哮を放ってきた。

 とんでもない声量の絶叫に空気が震える。気の弱い者であれば、これだけで座り込んで失禁してしまったことだろう。

 もちろん、ソレイユは気圧されることなく笑みを深めた。


「デカい声だな。来ないのなら、こっちからいくぞ!」


 ソレイユが地面を蹴り、ドラゴンめがけて斬りかかった。

 空中にいるドラゴンに鋭い斬撃を浴びせかける。

 ドラゴンが高度を上げて斬撃を回避するが、逃がしはしない。


「アルマカイン舞刀術――『月天』」


 ソレイユが宙を蹴った。

 厳密には、足の底から魔力を射出することで空中を高速移動した。


「ギャアッ!?」


 天をけて飛んできたソレイユにドラゴンが驚くが、すぐさま爪で応戦してくる。

 極太のナイフのような爪がソレイユを斬り裂こうとするが、身体を捻って回避。


「死ね」


 そこから、再び刀を振るった。

 緑色の鱗をまとった胴体に斬撃が命中して、血しぶきが舞う。


「硬い……!」


 ドラゴンの鱗は予想の倍以上も硬かった。

 手加減をしたつもりはなかったのだが、ソレイユの斬撃で与えたダメージは驚くほど軽い。


「流石はドラゴンというわけか……簡単に終わってしまってはつまらないな」


 両足で着地して、ソレイユが冷笑する。

 強敵との戦いにさらにボルテージが上がっていく。

 昂ぶる心に呼応するかのように、ソレイユの身体から膨大な魔力が噴き出した。


「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 だが……そこでドラゴンが絶叫した。

 限界まで開かれたあぎと。口腔の奥に炎が生まれる。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 次の瞬間、ドラゴンの口から炎弾が放たれた。

 一発や二発ではない。

 人間の頭部と同じサイズの炎弾が何十発も連続して射出される。


「ムッ……!」


 炎を避けて再び斬りかかろうとするソレイユであったが、そこで自分の立ち位置を思い出す。

 ソレイユの後方にはリュナとシノアがいる。

 このままでは、彼女達も炎に巻き込まれてしまう。


「仕方がないな……『柳緑』」


「キャアッ!?」


 ソレイユが二人の前に移動して、乱舞のように剣を振るった。

 降りそそぐ無数の炎弾が剣に……まとった魔力に弾かれ、明後日の方向に軌道を変える。


 アルマカイン舞刀術――『柳緑』

 魔力をまとった斬撃の結界によって、相手の攻撃や魔法を受け流す防御術である。


「グルアアッ!」


 一頻ひとしきり炎を撃ち終えて、ドラゴンが大空に向かって飛んでいく。

 逃げるつもりか……ソレイユが斬撃を飛ばそうと構えるが、思った以上に速い。

 魔力を練っている間にドラゴンが射程圏外に出てしまい、もはやソレイユの攻撃は届かない。


「逃がしたか……」


 ソレイユが肩を落として、刀を鞘に納めた。

 初めてのドラゴンとの戦いは不完全燃焼で幕を下ろすことになった。






――――――――――

今年も一年間、ありがとうございました。

来年も鋭意執筆していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


近況ノートに一年間の活動報告と来年の予告について載せさせていただきました。

興味のある方はチェックしてみてください。

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