第18話 呪い売り

「あーあ……残念だな。せっかく見所のありそうな若者だったのに。まさか、あのアクセサリーを選んじまうとはな」


 人混みの中に消えていくソレイユの背中を見送り、物売りの男が同情した様子で目を細めた。


「あのブローチは、アレだけはアウトだったんだ。アレ以外なら怪我をしたり腹を下したりで済んだってのに、まさか即死確実のジョーカーを選んじまうとはな。可哀そうにねえ……」


 その男はただの物売りではない。

 裏社会において『呪い売り』と称される無法者だった。


 彼の生業はその名の通り、呪いを売買することだ。

 金を受け取って、依頼人に宿った不幸を取り除く。

 その不幸を宝石に込め、アクセサリーに加工して別の人間に渡す。

 幸福と不幸を巧みに操作することで多額の金を稼いでいる悪魔の商人。

 金さえもらえば誰でも救うし、誰でも陥れる……そんな悪党だった。


「これだけある中で、まさかあのブローチを選ぶとは……素人でも毒気が見えるだろうに、ニブチンなお兄ちゃんだぜ」


『呪い売り』が露店に並べている商品には全て呪いが込められている。

『呪い売り』は人から取り除いた不幸を言葉巧みに他者に売りつけ、時には無料で譲り渡していた。


 ソレイユもまた彼のカモにされた獲物である。

『呪い売り』は適当なことを言って、自らが在庫として抱えている呪いの一つを押しつけたのだ。


「一週間……いや、三日もてば良いほうかね。まさか、『死毒』の呪いを選んじまうとはな」


『呪い売り』が空に顔を向けて「ホウ……」と溜息を吐く。

 ソレイユが選んだブローチ……アレにはとびきり強力な呪いが宿っていた。

 とある一族にかけられた呪い。

 その一族はかつて『死毒女神』と呼ばれる怪物の怒りを買い、早世する呪いをかけられていた。

 一族の人間はみんな三十歳前に命を落とす。全身を紫色の斑点で覆われて、『死毒』に苦しみながら発狂死するのだ。

『呪い売り』は一族の当主から依頼を受けて跡継ぎの息子の『死毒』を取り除き、あのブローチに封じていた。


「いつまでも抱えていたら俺も危なかったが……助かったぜ、お兄ちゃん。とんでもない爆弾を引き取ってくれて」


 強力な呪いを込めた品をいつまでも所有していれば『呪い売り』も無事では済まない。

 捨てることができれば良いのだが、彼は人の不幸を売り買いすることはできても捨てることはできない……それがルールだった。

 呪いを物のように扱うことと引き替えに、『呪い売り』はいくつもの縛りを遵守している。

 違反すれば死んだ方がマシだという災厄が彼を襲う。


「冥福を祈るぜ。お兄ちゃん、どうか安らかに死んでくれ」


『呪い売り』が天に向かって両手を合わせ、「ナムナム……」とどこの神に向けたものかもわからぬ祈りの文言を唱えたのであった。






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