たとえ世界が変わろうとも
@kakinu
1章
「序章
あるところに1つの世界があった。
その世界では、生を授かったその瞬間から《特技》という名の能力が1つ与えられる。1つの生命が1つだけ持つことを許される特別な技。
それは名前と少々似通うところがあるかもしれない。特技により世界の者たちは区別され、各々の判別の要因にもなりうる。しかし特技は、意味を創造して作られる名前とは明確に異なる点がある。
名前との大きな違い。それは、特技は武器となり、価値となることだ。特技の重要性が高ければ、多くの者から重宝されその存在を求められる。仕事を決めて生活するための軸となる。果たして求められているのは、その者の存在なのか持っている特技なのか。特技を主体として将来が構築されていくこの世界では、特技が生み出すその利益を十分に理解していく必要がある。特技の活用こそ、この世界での必要事項である。
そのような、自らの環境を取り巻く運命を左右する特技。これは一体誰が考え、授けるのか。もちろん知っての通り、生まれたばかりの者がいきなり喋りだして
「○○ができる特技が良い! 」
などと言い、特技を決めることは無い。
…いや、無いなんて言い切ってしまうのは甚だ傲慢であるか。絶対にありえないと言い切ることができるのはすべてを自分の思い通りにできる者だけだろう。逆説的に言えば、何かしら手に入れることが許されていない者の理解しているものなど、ただ信じようとして分かった気になり、無意味に、無意識に物事を肯定しようとしているだけなのだから。
話は逸れたが、結局のところ与えられる特技を決める者は誰なのか。結論から言うと、それはその者に生を授けた者である親になる。
簡単な話、親が子どもの将来に期待する意味を含ませた名前を付けるように、特技もまた子どもの生き方を想像して意味のあるものを授けるのだ。
武器と同時に凶器にもなりうるそれを、単純な思考で決めることは自らの子どもの育成を放棄することと同義。自らの子に運命の扉を開ける鍵を渡す親には重い責任がのしかかることになるのである。
どうやらまた1つの家に新たな命が生まれたようだ。例に違わずこの者にも特技が与えられる事になる。自分の子がどのような存在になってほしいか、両親は一生懸命考えた。何度も思考し、熟考し、それでいてお互いに相談しながらある特技を与えた。
その者が手に入れた特技は〈
もしもこんな世界があったならば、貴様は一体どのような特技を望む?」
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