幕間07 崩れゆく守護

 私は長年勤めてきた防衛機関で、今日も忙しくしていた。

 いつも代わり映えのしない所を行き来し、山ほどの書類や情報に囲まれている。

 けれど苦に感じたことは一度もない。むしろ誇りに思っていた。この王都グランオールは国一番の重要な地だ。決して何かがあってはならない。

 

「主任、結界技師から呼び出しが来てます」

「わかりました。直ちに向かいましょう」


 伝令に従って、必要な指示を声掛けしつつ部屋を出る。


「あの主任、こちらの書類なんですが……」

「どうしました。ああ、こちらは騎士団の管轄なので渡して下さい」

「はい、わかりました」


 途中で呼び止められはしたが急ぎ現場に向かう。

 綺麗に整えられた長い廊下を歩く。角を曲がり、階段を下りて地下の結界管理室へと足を運んだ。扉と敷居を潜ると整然とした景色が一変。


 まず最初に視界を占めるのは大きな水晶球。厳密には魔石を加工したものだが、宝石と外観で大した違いは見られない。

 その周囲には記号的な模様と機器類が並ぶ。魔法の要素が強い光景だ。


「防衛部さん、ご足労ありがとうございます」


 結界技師の1人が歩み寄り声を掛けてきた。

 私は会釈して、奥で水晶球を睨んでいる責任者に向かう。


「何かありましたか?」

「ああ、厄介なことになった」


 無骨な職人さを感じさせる御仁だ。年上の彼と背筋を正しながら話す。

 相手は視線を反らさぬまま険しい顔をしていた。これは一大事な予感がする。固唾を呑んで聞き返す。


「厄介なこととは?」

「単刀直入にいう。結界に不具合が出た、早急に大規模な整備が必要だ」

「なんですって!? 今になってどうして……」


 勇者カイルが活躍していた時、この都市を守り切った結界が何てことだ。


「今だからこそだろう。こりゃあ一度止めなきゃとならねえ」

「困りましたね。少し猶予を下さいませんか」


 いろいろと手配が必要だと伝える。それは彼も承知だった。

 だからこそ自分の元に声が掛かったのだろう。結界の整備は最優先だ。

 しかし大規模となれば、防衛態勢を整える関係で簡単には進まない。今すぐ取り掛かっても数日はかかる。すぐに予定を算出して私は動き出した。


「すぐ取り掛かります。追って実行日を相談しに来ますので、準備を進めていて下さい」

「おう、頼んだ」

「はい。では失礼します!」


 私は急ぎ、結界管理室を飛び出して方々へ向け足を進める。

 結界停止規模の事態はここ長らくなかった。不足の事態が起こる可能性を考える。杞憂ならばいいが備えを怠るつもりはない。この都市を守るためにできることを、迅速かつ全力で行うのだ。

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