第13話 準備期間を終えて
数日が経過して実地演習が近づいた頃。
校内を歩いていると他学科の区画から出ていく蓮之介の姿を見かける。
(ここって技工科?)
追いかける形で足を運んだ時だ。
「こんにちは~。技工科にご用ですか」
中央共通語だけど、独特な発音で話しかけられた。地方の訛りかな。振り返ってみると小柄な少女が立っている。
しかも彼女は、初日に魔法の実演をしてくれた生徒だった。褐色の肌に赤毛と緑色の瞳。耳の先が少しだけ尖っている。
「違います。通りかかっただけで……」
「そやったんですね。もし入用でしたら、いつでもいらして下さい」
「入用って何かしてくれるの?」
「ご覧の通りここは物作りの専門や。ご注文、お待ちしとるえ~」
「う、うん」
雰囲気は柔らかったが妙に気圧されてしまった。
自然と肩に力が入ってその場を後にする。他の学科に行くのはまだ慣れない。
講義をこなしつつ俺は掲示板までやってきた。何人か見覚えのある顔ぶれがいる中で、張り出された書類を眺めていく。ここにはお報せ以外に広告や、生徒向けへの依頼状が張り出されている。
(何かいい依頼ないかな)
危険が高いものは殆どない。でも小遣い稼ぎや経験になるだろう。
内容を確かめている時、依頼状を取った人が周囲に向けて男子生徒声を上げる。
「誰か一緒に採取支援の依頼行かないか?」
「俺行く」
初めてのことで慎重になっていたので渡りに船だ。
もう1人、立候補があった。提案者が募集を締め切り3人連れだって歩き出す。まずは依頼状を事務に通し仮証を受け取ってから出発。
今回チームを組むことなったのは、エルフ族の男子生徒と人間族の女子生徒だ。
「改めてボクはニルス。今日はよろしく」
「あたしはカリア、頑張ろうね」
「うん。俺はエミルだ」
互いのことや依頼の話をしながら現地に行く。
王都郊外の診療所。到着して早々、俺は驚きの声を上げた。
「なんでニーアがここに!?」
「課題です。お手伝いをしに来ました」
「こんにちは。貴方達が支援してくれる学生さんかしら」
「はい」
声を掛けられ依頼状と仮証を看護師に見せる。
今回の依頼は外に薬草採取をしに行くための護衛だ。図らずも医療科の生徒と行動を共にすることとなった。看護師と医療科の男子生徒と一緒に任務開始。
依頼人が同行する類の採取依頼は危険度が低めらしい。もちろん依頼人にもよるんだけど……。
住宅街を進んでいざ、結界の外へ。ここからが大変だ。
以前訪れた平原の直ぐ脇に森がある。今回は山側とは反対方向の森に向かった。栽培が難しい種類を重点的に探すのだという。
「暇ねぇ」
「油断は禁物だよ。ちゃんと見回って」
「了解、俺向こうを見てるな」
そうそう魔物なんて現れる筈もなく。いや、平穏に越したことはない。
木々の合間や茂みの影に獣や鳥の姿を見かける。しかし大半は、こちらから手を出さなければ大人しいものだ。最後まで気を抜かずに依頼をやり通す。
「どうも、ありがとうございました」
依頼人が依頼状にサインと判子を押して渡した。
学園に帰還後、再び事務に向かい依頼状と仮証を提出。事務員が確認を終えて報酬をくれる。共同で請け負った場合は相談して山分けした後で解散だ。
本番間近のある日、俺はふと気づいたことがあり図書室を訪れた。
講義で習ったグミという魔物についてだ。確か魔物から採れる素材があった筈。処分ついでにそれらを入手して活用することはよくある。種類によっては跡形もなく消滅する奴もいるけど……。
「うーん、これかな」
背表紙を流し見なら渡り歩き、棚から一冊の本を引き抜く。
パラパラと中を確かめて違えば戻す。そうして何冊か探っていると該当の頁を見つけた。
(えっと、なになに……。グミから採取できるのはグミコア。氷魔法を受けると氷石化することが確認されており、保冷剤として用いることが可能と)
「グミコアはたぶん魔法を使った調合素材っぽい?」
こういった宝玉系は魔法道具を作る際に用いられやすい。
(調合は得意じゃなんだよな)
得意じゃないというよりは、興味がなくて詳しくないが正しいんだけど……。
あらかたの情報を頭に入れ本を棚に戻す。用事は済んだが他の本を見ておこうと考え、引き続き室内を歩き回る。やがて魔法関連の棚まで来た。
「せっかくだし幾つか選んでおこう」
初心者用の魔法指南書を下見していく。中級者以上のものも同時に見ておいた。
本番前日の夜、俺は寮の部屋で荷物を前にそわそわしていた。
緊張と興奮、そして不安。周囲には服や道具類が乱雑に置かれている。数日間を予定した今回の演習に向けて、ああでもない、こうでもないと取捨選択をしていく。
(一応薬も少しは用意して、おやつはどれくらいにしよう)
同室の奴が部屋に戻ってきた。トーマスのふさふさの尾が揺れている。
「機嫌良いね」
「わかる? チームメイトから手作りクッキー貰ったんだぁ」
顔が緩んでいる、かはわからないが態度と声音が示していた。
大事そうにそれを明日の荷物の中へ入れる。そして一呼吸おいてから振り返った。
「いよいよ明日だね」
「うん」
「燃えるな。オイラ達は地の迷宮に行くんだ。エミル君はどっち行く」
「グミの林、仲間の勧めで」
「そっかぁ。あ、知ってる? 普通科にめっちゃ強い子がいるらしいよ」
また情報を掴んできたみたいだ。同室になり、おしゃべりなのも知った。
他の学科の情報は有難いので先を促す。気にならない筈がない。雑談程度の感覚だったけど、もう少し詳しく知りたい欲が出てしまう。
「どんな人かな。誘ったの?」
「うん、断られたけどね。獣人族だと思う。不思議な感じ」
話題の少女は校内でもちょっとした評判とのことだ。
かなり狙っていた様子で残念そうに語る。噂の範疇だが、夜間に空中を駆ける姿を目撃したとか。俺もこの前技工科の生徒に声を掛けらたことを話すと――。
「技工科の生徒との繋がりは大事だよね。武器や道具を発注する人もいるみたい」
「特注品か。カッコいいな」
「素材やお金はかかるけど憧れるよねぇ」
でも安く済んだりするみたい。まだ縁はないけどいつかと夢想した。
その後、話をほどほどに切り上げて明日に備え就寝する。ベッドに入った後も、盛り上がる気持ちに胸がいっぱいだった。
⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔
いよいよ実地演習の日がやってきた。初めての遠征で緊張する。
チーム毎に馬車へ乗り込んで出発。結界領域を出て、砂利道を揺られながら進む。集合地点となるルルキノ村までは皆一緒だ。
右手に見える平原が森へと移り変わり村が見えてきた。
湖の畔にあるのどかな風景。牧畜をする農家があり、広くはないが畑もある。
到着後はそれぞれ別行動を始めた。即出立するも良し、焦らず行くのも良しだ。
「俺達はどうする。早速行く?」
「準備はできてます」
「ちょっと待て。時間と距離を考えると夜にならないか」
言われて俺は地図を広げて確認する。
確かに休憩や野営のことを考えたら到着は夜になりそう。
「実地演習は移動時間を考慮されて期間が組まれてる。焦らなくていいんだ」
「すぐ出発しない人を見かけるのは、そういうことなんですね」
「本当だ。結構残ってる」
方針は様々で村人と交流している人を見かけた。
よく考えた結果、俺達は一泊して翌朝にルルキノ村を出立する。
左手に丘を眺め、青々と茂る草原を歩く。右の山沿いに進めばグミの林はすぐだ。途中で地の迷宮へ向け反対方向に進む同級生らを見かけた。
休憩や野営を挟んでついに到着。結構時間がかかった。
空はまだ明るい。目の前には怪しい雰囲気の漂うグミの林。下調べを兼ねて足を踏み入れようとした時、背後から蓮之介に呼び止められる。彼は懐から折りたたまれた紙を取り出す。
「これ、一応作って貰ったけど」
「もしかしてグミの林の地図?」
開いてみると簡単ながらも丁寧な図が描かれていた。
「一ヶ月は前の情報だから、どこまで当てになるかわからねーぞ」
「十分嬉しいよ。ありがとう」
「ありがとうございます。早速活用していきましょう」
俺は身構えて林の中に突入していく。
グミの樹は色の継ぎはぎをしたかの如き奇怪さ。でたらめに落書きをしたようにも見える。明らかに普通ではない景色は不気味だ。
突如、左の樹木がどろりと溶けて崩れた。思わず後退して剣に手をかける。
「グミィ~」
「本当に樹が魔物になった!?」
「意外と可愛いんですね」
高く幼さを感じる声で鳴く魔物。困惑したニーアの声。
蓮之介が注意を促す。今のところ大人しいがどうだろうか。襲ってこないのなら無理して戦う必要はない。今回の課題は採集だ。こいつらから採れる物じゃないと下調べはしてきた。
「ミィ?」
「襲ってこないね」
「でしたらこのまま通り抜けましょう」
「うん」
「なら目線そのまま、背を向けず距離をとれ」
指示通りに一定の距離までは目を反らさない。
魔物は様子見のつもりか。動かなかった。ある程度離れた後は背を向け一気に走り出す。無事逃げ切ることができた。
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