2章・学園編
第10話 初登校と転生者の噂
ランカディア王国・王都グランオールにあるグランデール学園。
広い敷地内には校舎と寮を含め様々な施設が建ち並ぶ。外観は緑と淡い黄色を基調に、上品ながらも重厚な趣を醸し出していた。
そして、ここには学年が存在しない。必要過程を完遂した者から卒業していく。命を懸けるからこそ半端なまま旅立たせないためだ。
「デカいし広~い」
登校初日、俺は立派な学園の風景に感嘆の声を零す。
正門から並木道を歩いて校舎まで向かう。ニーアと並んで進む。あと少しで到着という所で妙な人だかりを目撃した。
(なんだろう。気になる)
「トラブルでしょうか」
「うん、ちょっと見に行ってみよう」
野次馬根性が働いて足が引き寄せられる。
他の生徒に混じって覗き込む。騒動の中心に数人の男子生徒がいた。
その1人はとても目を引く容姿で、種族は人間族、長い黒髪を後ろで1つに束ね和装。本で見た桜蘭帝国の服装だ。腰帯にはこれまた本で知った打刀を差し、更に太刀を紐で吊るしている。
(なんで、懐かしいの?)
あの青年を見ていると信じ難い不思議な感覚を覚えた。
「お前今なんて言った」
「はあ!? 何言ってんだコイツ。関係ねーだろがッ」
睨み合う両者の会話を聞き、周囲はざわざわと囁き合っている。
誰か状況わかるヤツいるかと問う声が聞こえた。つい聞き耳を立ててしまう。どうも暴言を吐いた人に和装の彼が挑みかかっているらしい。でも……。
(微かだけど血の匂いがする)
黒髪の剣士に庇われている人は、膝や手に怪我をしているようだ。
「いいや、人として許せねえ。低俗な言葉で他者を罵って傷つける性根がよ!」
「ゴミをゴミと言って何が悪い?」
「雑魚なそいつが悪いんじゃん。マジでクズカスな力しか持ってないしさ」
嘲笑しながら言う連中に、青年は一層表情を険しくし身を震わす。
鬼の形相とはこのことだろう。視線で射殺せそうなくらい鋭い眼光で睨んでいた。
「こいつらっ。一度言ったら取り消せねーんだぞ」
「だから何?」
「言っちゃ悪い言葉があるって言ってんだ!」
殴り掛かりそうな気迫で言い放つ。まだ手は出してないが時間の問題か。
その時、教員や腕章をつけた生徒がやってきた。騒動を知り駆けつけた彼らが仲裁を試みる。真っ先に背筋を正して謝罪したのは黒髪の剣士だ。
「お騒がせしてすみません」
先程までの様子とは嘘みたいに冷静だった。
一方の2人組は無視して立ち去ろうとする。だが引き留められた。
「詳しい事情を聞くので同行願います。任意ですが、拒否した場合は心証を損ないますよ」
「ちっ、わかったよ」
「は~い」
渋々といった態度で従う。次いで腕章つきの生徒はもう一方に目を向ける。
「君もいいですね?」
「はい。その前に彼女を医療科に連れて行っていいですか」
「わかりました。必ず来てください」
「もちろんです」
腕章つきの生徒が教員に会釈して2人組を連れて行く。
この場に残った教員は野次馬の皆に解散を促した。俺達も指示に従って歩き出す。ニーアとは途中で分かれて冒険科の
最も生徒数が多いこの学科は学園の花形と言える。
早速、新入り達は競技ホールに召集された。見回してみても実に様々な種族がいる。ハーフは珍しいかもしれないが、人間族・エルフ族・獣人族・鳥人族・鬼族など。
待機時間をただ待っている者は少ない。既に半数以上が仲間の勧誘に向けて交流していた。
(当然だよな。この学園に通うメリットは仲間探しの優位性だ)
手っ取り早く多国籍・種族の人と関われるのは大きい。
「君変わった種族だよね。ハーフ?」
「うん、君は……」
振り返った先に立っていたのは獣人族の男子生徒だ。
身体の構造から視線や表情がわかり辛い。でも嫌な感じはしなかった。
「獣人族だよ。出身はアルマスのメメントという町。あ、名前はトーマスさ」
「俺はエミル、出身はこの国のカサリナって所」
「そうなんだ。ところでエミル君は登校時の騒動は知ってる?」
「もちろん知ってるよ。見てたもん」
「じゃあさ、騒動の中心にいた1人が転生者だって噂はどうかな」
転生者という言葉にきょとんと驚いてしまう。
こっちの反応を見た彼が口端を上げた。調子の高くなった声音で話す。
「ここに知り合いの先輩がいて聞いたんだ。故郷の近くにある牧場にも何人かいるけど、学園内にも結構いそうで期待しちゃうよね」
「な、なんで?」
「転生者は高確率で
「あー」
情報としては知っていた。興味があり調べたことがあって。
でもそれだけで期待するものだろうか。才能や能力があってもいろいろと未知数だ。武術や魔法を習得していれば、珍しくはあっても無条件に期待するものじゃない気がする。
(気持ちはわかるけど高望みは良くないよね)
能力を使えるからこそわかるのだ。期待するほど便利なものじゃない。
「けど才能でも能力でも万能って訳じゃないし……」
「まあね。だからこそ厳選は大事なのさ」
(理解はできるけど誤解を招きそうな言い方だなぁ)
話を聞きながら騒動の時を思い出す。あの中に転生者がいるのか。
それは気になる。会って、話してみたい。あの時のおじさんは違ったけど今度は本物かな。並々ならぬ興味が心中を渦巻いた。自分でも信じられないくらいにだ。
適度に会話をして獣人の彼と別れる。視界の端に大勢の生徒に囲まれた人を見かけた。
(人気だな。海龍族っぽいし、海から離れたこの辺りじゃ珍しいか)
水中活動ができる貴重な人材として注目されているのだろう。龍より蛇に近い。
ほどよく交流を続けていると、物々しい雰囲気で教員が数人の生徒を伴って現れた。場が一斉に静まり返る。
「静粛に、諸君らは既に一般常識は取得済みと心得る。そちらを希望ならば、今すぐ普通科に転科したまえ」
厳かな雰囲気で察せられる前置きを沈黙が返った。教員は1つ頷き続ける。
「我が科では主に魔物の知識、武術鍛錬、活動についてを学んで貰う」
一拍おいて教員は前座とばかりに最新の魔法情報を伝達した。
最近になって発見・確立された「氷」と「鋼」の属性についてだ。前者は以前から水魔法の中にあったが最近になり派生として区別。後者はまだ未完成ながらも一定の成果が見られた最新魔法。
「氷魔法に関しては概ね諸君らの知っている通りだ。よって鋼魔法について教える」
教員が伴った生徒の1人に目配せした。
進み出た生徒は用意された荷車の前に建つ。車輪の金具が破損している。魔法を用いて車輪を修理してしまった。実演した生徒が皆に向き直り、距離を取るよう合図してから口を開く。
「
わかり安く唱え中空に無数の剣を生成する。それを一点に向けて突き立てた。
しかし役目を終えた剣や、車輪を補強していた金具が溶けて消えてしまう。
「このように今は効力こそ一時的だが、汎用性の高さを望める魔法だ」
「スゲェ、でもアレ派生属性なんだろ?」
「その通り! この属性は炎と地の複合である」
ちなみに氷は水と風の複合だ。一通りの説明を終えると教員は一旦下がり、代わりに腕章をつけた生徒が前に進み出る。
「我々は学内の治安を任された生徒会です。本校は基本自由ですが、各自に節度を持った態度を求められますので気を引き締めるように」
行き過ぎた行為は我々が取り締まる、と生徒は力強く宣言した。
必要事項を話し終え会釈して後退する。再び教員が前に立ち、10日後に最初の実地演習を行う旨を告げて解散を許可した。座学講義までの時間は自由行動だ。
ホール内に居残って交流を続ける生徒が大半の中、俺は外に出て行く。
(さっき聞いた転生者の噂。帝国の人だと言ってた)
つまり怪我人を庇っていた彼だ。あの人を探して校内を渡り歩く。
「あの、すみません。人を探してるんですが……」
「ふーん。誰?」
「帝国の着物を着てて髪の長い剣士です。知りませんか」
「あぁ、あいつか。奴なら今頃は裏庭だと思うよ」
「裏庭ですね。ありがとう」
道を確かめながら裏庭を目指す。途中に中庭を通りかかり足を止める。
(あれ、今の)
通り過ぎそうになったが引き返して見直した。
目立つあの服装。長い髪の後ろ姿。屈んでいても刀を外さないあの人物は――。
(きっと今朝の人だ)
嬉しさから表情が緩むのを感じながら近づく。彼は背を向けたまま言う。
「はいはい、ちゃんとやってますよ~。もう少しで終わるから」
「いや俺は……」
「んん? なんだ生徒会じゃないのか」
俺は振り向いた彼に頷いて肯定する。
状況を推測していると当人の口から罰掃除と聞く。屈んでいたのは雑草をむしっていたからだ。麻袋にゴミが入れられていた。立ち上がって砂埃を払う。
「人助けをしたのに罰受けてるんですか?」
「騒動を起こしたからな。新入生もいる往来で怖がらせたし。でも外で奉仕活動してる連中よりはマシ」
事情の説明に納得する。喧嘩による被害拡大はあり得る話だろう。
合図を打った後、自己紹介をすべく背筋を正す。
「初めまして。俺はエミル、新入生です」
「名前か。フフッ、オレは
「こ~ら、でたらめ言うな。名前は
「誰だ! て、お前いつからそこにッ」
何が目的だ、と校舎の窓から顔を覗かせる男子生徒に叫ぶ。
「たった今。初対面相手にやらかす、その化けの皮を剥がしてやってんの」
「余計なことをしやがって」
「どっちが。お前の第一印象の悪さは大体ソレだぞ」
「な、んだと」
「第一に大魔剣士って、魔法使えないのによく言う」
絶句する友人を前にして笑いながら男子生徒は俺に言う。
「ソイツ根は真面目だから仲良くしてやってくれ。あと本名呼び嫌がるからあだ名で呼んだらいいよ」
「は、はい」
「おいレン。いつまでも白けてないで新入生の面倒見てやれよ~」
呑気な調子で言い放ち窓の向こうに消える人影。
姿が見えなくなった後、我に返った蓮之介が気まずそうに咳払い。小さく「向いてないのかな」と聞こえてくる。
「えーっと、なんて呼んだらいいですか?」
「之介呼び以外なら何でも」
(なるほどノスケの部分が嫌なのか)
「じゃあレンさんって呼びます」
「呼び捨てでいいよ。オレ、いや僕相手なら楽に話してくれていいから」
「本当に良いんですか。その歳が、怒ったりは……」
「この程度で怒らねーよ。他はどうか知らないけど、ここじゃ同じ冒険者志望だ」
晴れ晴れとした気持ちのいい笑顔を向けられた。
おかげで気持ちが和らぎ「お言葉に甘えます」と提案に乗っかることにする。念のため普段の調子で話してみたら、本当に機嫌を損ねる様子がなくて安心した。
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