第7話 一緒に遊ぼう
もうすぐ10歳になろうという頃。俺は本を抱えて歩いていた。
目指すのはパン屋、タルホの実家だ。目と鼻の先まで近づくと見慣れた一団が見える。あれはタルホと道場で顔を合わせる子達だな。何を話しているんだろう。
「そんな簡単なこともわからねーの?」
「やっぱ貧乏人はバカな奴ばっかだな」
「確かに余裕がある訳じゃないけど貧乏ってほどじゃ……」
(あいつら)
不穏な雰囲気を感じて俺は駆け出す。
「お前らタルホを虐めるんじゃねえ!」
「なんだエミルか。別に虐めてねーよ」
「ああ、無知な庶民に教えてやっただけさ」
「その態度は因縁つけてるだろーがっ」
「はあ!? 俺らのどこに問題があるんだっつの」
今にも殴り掛かりそうな片方をもう1人が止める。
「止めとけ。こいつ道場でも選りすぐりの実力者だぞ」
「ちっ、今度の道場覚えてろよ」
「なんだよ、あいつら」
口をとがらせて去って行く連中に睨み返した。
けどすぐに表情を解き背後を振り返って口を開く。
「平気か?」
「うん、ありがとう」
「ごめんな。あいつらも悪い奴じゃねーんだけど」
態度が大きいのは擁護できない。悪い奴らじゃないけど、どうも格下とみた相手に強気なんだよな。
気を取り直して持っている本を差し出す。
「これ前に言ってた本」
「本当に貸してくれるの。嬉しい」
「返すのいつでもいいからな。俺はもう読み終わってるし」
「わかった」
これか家の手伝いがある彼と別れて森へ修行に出掛けた。
別日、よく遊びにくる川辺で1人特訓する。
剣術に魔法はほどほどにして俺は1人唸っていた。
「ぬぅ~ダメだ。やっぱ勘違いだったのかな」
猫を探したあの日からたまにやっていることだ。
でも全然で何も起きない。感覚のほうもイマイチ実感が湧いてなかった。自分の手を見つめながら意識を集中させるけどサッパリ。
(能力じゃなかったのかな、アレ)
「ま、いっか。さーて魔法の続きしよ」
深く考えてもわからないなら諦める。時間は有効に使わないと。
俺は先生の指導に従って属性を絞り練習していた。特に得手不得手がなかったからだ。
(個人的にあいつと、属性被るのは嫌だったけど仕方ないよな)
「えーっと属性の合成をするためには……」
塾で学んだことを踏まえ、指南書を読み解きながら試す。
力の方向と流れを読んで入れる。反発しないよう丁寧に混ぜ、練り合わせた魔力と元素を現象の設計図=型に流し込む。あくまで感覚の話だがこんな感じ。これを繰り返して素早くできるようにするのだ。
ひたすらに何度も鍛錬を重ねていく。これが一番の上達方法だろう。
「よし、でりゃぁぁ!」
前方につき出した手から激しい火花が飛び出す。
放たれた閃光は稲妻の如く。地上を這うように駆け手頃な岩に激突。霧散した。
「砕けなかったか」
(まだ合成が甘いかな?)
「精が出ますね」
あらぬ方向から声がかかり振り返る。ニーアだ。
俺は明るく応え、彼女の恰好を見て「薬草の勉強?」と尋ねた。彼女が頷く。勉強熱心なんだねと褒めれば照れて可愛い。遠慮がちなのも相まって一段と。
なんとなく並んで座り語らう。内容は大したものじゃない。
「へえ、そうやって魔法の練習してるんだ」
「はい。私の場合は森や花の声を聞く感覚で、大地と結びつきやすいの」
「参考になりそうでならないなぁ」
「ごめんなさい」
落ち込んだ彼女を見て慌てて弁解する。
「謝らなくていいって種族の違いなんだしさ。あ、種族といえば前から気になってたことが……」
「なんでしょう」
「いつも着けてるそのペンダントって何?」
ニーアは一瞬目を瞬き、大事そうにペンダントを握った。
「これは
「そんなに大事なんだ」
「はい。この中には本体があって、森の外で生きるための必需品なの」
「めちゃくちゃ大事じゃん」
こんな大事なことを聞いてよかったのかと今更思う。
けれど考え直した。いくら聞いたからといっても、教えて良いから話してくれた筈だ。なので不安に思う代わりに「絶対悪戯しない」と約束する。彼女は嬉しそうに「約束ね」と言う。
しばらく2人だけの時間を楽しみ、今度タルホも誘って遊ぼうと約束し、きりの良いところで各々の目的に戻った。
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約束の日、俺は友達と遊びに出かける。季節は夏で天気は快晴。
まあ場所はいつもとそう変わらない。前にタルホと作った秘密基地で着替えて川に向かう。今日はニーアともう1人いた。豪快に飛び込んで岩上に呼びかける。
「早く来いよ。気持ちいいぞ~」
「どうして僕が庶民と……」
そこには強張った顔のハロルドがいた。
なぜ彼がここにいるのかというと数時間前に遡る。
待ち合わせ場所で合流し、森へと向かう途中に偶然彼と会った。
「あそこにいるのハロルド君じゃない?」
タルホが言う。示されたほうを見ると木陰で1人本を読んでいる。
平然としているが暑くないのか。疑問に思いながら歩み寄って話しかけた。ちょっとした気まぐれ。普段なら放っておくんだけど、今日はなぜか気になってしまったんだ。
「本読むなら家にしたら?」
ハロルドが一瞥、一度視線を本に戻して顔を上げる。
「君に関係ないだろう」
「でも暑くないかな」
好奇心から本を覗きこもうとしたら閉じられた。軽く睨まれてしまう。
暑くないなんてことは考え辛い。彼は額から汗を掻いていたし、頬も心なしか上気している。家に帰りたくない理由でもあるのか。事情を聞くつもりはないのでこう言うことにした。
「じゃあさ、これから一緒に川へ遊びに行こうよ」
「はあ!? なんで僕がっ」
「賛成。人数が多いと楽しいもんね」
「私も構いません。ねえ、一緒に遊びましょう?」
「うぐ、ニーアちゃんがそういうのなら……」
「決まり! さあ、行こういこ」
まあ、こんな感じで少し強引に誘ってきたかな。
それで現在、水面と睨めっこしているハロルドを立ち泳ぎしながら誘う。
「まさか泳げないのか?」
「そんな訳がないだろう!」
「なら早く来いよ。飛び込まなくていいから、こうぬるっと」
「如何わしい表現をするな」
チラッととニーアを見て言い返してきた。
観念したようにそろ~っと入ってくる。泳げるのは本当らしい。
己の体力と相談して立ち入る領域を決めていた。俺はある程度深い所もへっちゃらだが、ハロルドとタルホは少し浅瀬、ニーアは岸に近い所にいること多い。
この辺りは流れが緩やかだ。でも今日は皆に合わせて深過ぎる所は遠慮した。
「皆さん、これで遊びませんか」
誘う彼女は植物のボールやリングを持っている。
「これ魔法で作ったの?」
「はい」
「上手だね」
「面白そう。どんな風に使う」
俺が皆に意見を求めるとハロルドが得意げに言う。
受け取ったリングに魔法をかけて宙に投げる。ふわふわと浮き動く的が完成した。あの中にボールを通す遊びのようだ。
「せっかくだし、バトルロワイヤル形式でやろうぜ」
「うん。いいよ」
「頑張ります」
「ふっふっふ、僕の華麗な狙撃テクニックを見せてあげるよ」
「負けねーぞ!」
提案に皆が賛同したのを確認し競技スタート。
白熱して盛り上がる攻防。時に協力し、妨害して本気の戦いを繰り広げた。
十分に動き回った後はひと休み。ちょうどいい時間なので、持ちよった物と現地調達した食材で野外飯をする。焚火は俺の魔法でつけたんだぜ。のんびり暖かい時間が心地いい。
「あれ、ハロルド食べねーの?」
「いや魚をかぶりつくのは……」
「他にどう食べるんだよ」
言いながら俺は魚を頭からがぶりと食べた。ん~うまい。
「気にならない君達を羨ましく思う日が来ようとは……」
「仕方ねぇな」
俺は草と枝を編んで皿を、持ってきていたナイフで木を削り匙を作る。
前に教わって覚えたことだ。そこに魚を乗せて渡す。最初は唖然とした様子だったけど、彼は素直に受け取り礼を言う。手際を見ていたタルホが「器用だねぇ」と呟いていた。
急ごしらえの匙で上品に食事をするハロルド。この中じゃ一番所作が綺麗かもな。
「こうして皆で遊んだりキャンプするの楽しいね」
タルホがしみじみと言った。
「そうだな」
「僕は別に君達となんか」
「楽しくないですか?」
「い、いえ、そんなことはありません!」
「よかった~」
安心したように微笑むニーアに見惚れている。
ちょっと面白くない。からかってやろう。
「あー赤くなってやんの」
「煩いよキミ」
犬の如く唸っているのを知りつつも素知らぬ顔で聞き流す。
まあ、ほどほどに留めて遊び再会だ。それぞれ時間が許す限り楽しみ尽くした。
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