第46話 兎佐田桃香は贈るのである。

 翌日。

 私たちは昨日の夕飯に負けず劣らずな豪華さを感じさせる朝食バイキングを済ませた後、予約していたスキーを楽しむことにした。

 レンタルしたスキーウェアに着替え、スキーのインストラクターさんと共にスキー場のゲレンデへ。

 関東の滅多に雪が降らない地域で暮らす私たちは、当然スキー初心者。

 比較的なだらかな初心者向けコースでのんびり遊ぶことに。

 薫衣は少し滑れるらしいが、私たちに合わせて同じ初心者向けコースで遊んでくれる事となった。

 正直、元々運動が得意ではない私はスキーなどハの字で不格好にズルズル滑るしかできない……と考えていたが。

 ちょっと慣れて来た辺りでほんの少しだけスピードを上げて滑らせて貰ったら、それだけでまあ楽しい!

「うわっ、きゃっ! あっはははは!」

「ひゃー! 怖い怖い怖いー! 滑るー!」

「やばいやばいやばい! うおー!」

 リコ・ばにら・桃黄子の金髪ギャルトリオのハイテンションスキー。

 白い雪と輝く金髪のコントラスト……美しいな……。

「ふぅ……」

 その後ろから薫衣の華麗なスキー。

 汗ばんだニットを取り、冬の風にあおられた黒髪のなんと艶やかなことか。

 ……。

 もう一人の黒髪、蜜羽はどこへ?

「な、なあ、桃香さんよォ――……」

 お、噂をすれば背後から声が……。

「こ、これ……持ってみてほしーんだけどよォ――……」

 振り向いて目に入って来たのは……子供用のプラスチック製のソリを持ってきた蜜羽。

 ……なるほど。

「あ、いや、流石にこれはねーよなァ~ははは……」

 そう言ってソリを引っ込めようとしたが、私はひょいっとソリを引っ張るように受け取る。

「うーん……持ってるだけじゃなんか微妙ですかね。乗ってみましょうか」

 ソリを雪の上に置き、その上に跨るようにして座ってみる。

 ソリなんてだいぶ久しぶりのはずなのに……この低い身長のおかげで妙にしっくり来る気がする……。

「えっと……どうです?」

「は……わ……はわ……え……?」

 頬を染め、寒さとは違う意味で震える蜜羽。

「な、なんでそんな素直に……?」

「あー……まあ、昨日のお風呂でフェチ満たせてなかったみたいだったので……埋め合わせみたいな……?」

「はわわわ……♡」

 キラッキラした目で見つめて来た……。

「……写真とか撮ります?」

「いいのッ!?♡♡♡」


 しばらくスキー(たまに蜜羽の撮影)を楽しんでいたら、あっと言う間にお昼の時間。

 スキーウェアから着替え、ホテル内の洋食レストランで昼食を取る事にした。

 ちょっと豪華な食事に疲れたのでもう少し庶民的な奴がいいな……と思い、カレーライスを注文したが……カレーライスもまた妙に高級そうな味がする……めっちゃコクのあるビーフカレーだ……。

 リコはボロネーゼパスタ、ばにらはハンバーグとコーラ、蜜羽はチキンソテー、薫衣はローストビーフ、桃黄子はエビドリアを注文。

 薫衣のローストビーフを除いたら女子高校生のファミレスの注文感が無くも無いのだが……どれ見てもファミレスのそれとは大違いなんだよな……。

 ボロネーゼなんかひき肉とチーズの量やば……。

「お昼食べたらどうするー? あーしスキーはもういいかなーって思ってるけどー」

 食事をしながらばにらが提案。

「楽しかったけど、確かにちょっと疲れたよね……」

「わかるー。はしゃぎ過ぎた感あるわー」

 リコと桃黄子も、ばにらと同じくスキーはもう充分な様子。

「確か、屋外アートエリアっつーのもあんだよなァ――……そっち行ってみるかァ~?」

「アートエリアでしたらわたくしも行ってみたかってので、皆さんがよろしければ……」

「あ、あの……!」

 蜜羽からアートエリアの話題が出て、薫衣が乗って来た所で、私は慌て気味に手をそっと挙げる。

「し、調べたらアートエリア、夕方からクリスマスイルミネーションのイベントもやるみたいで……ちょっと暗くなってからの方が綺麗かも……です」

 私の発言に、みんな「おっ?」という表情。

「へー……桃香、そういうのちゃんと調べてくれてたんだ?」

 リコがニマニマしながら言う。

「そ、そりゃあ調べますよ……せっかくのクリスマスなんですし……こう、雰囲気いい感じのイベントとか観光場所とか……」

「うん、嬉しい。ありがと、桃香」


 私の提案により、イルミネーションが始まる十七時からアートエリアへ向かうことに。

 それまで、ホテル内にあるお店を見て回ったり、ラウンジでゆっくりしたり、外で軽い雪遊びをしてみたり。

 当然、例の最上階のロイヤルスイートルームでラグジュアリーなひとときを過ごしたりもした。

 その途中、私は一度自分の部屋へ戻り、用意しておいたものをショルダーバッグにしまう。

 そのショルダーバッグを肩に、私は再びみんなの所へ戻った。


 その後も適当に時間を過ごした後、私たちは少し早めに屋外アートエリアに。

 プロが作ったというその見事な雪像や氷像を見て、イルミネーションイベントまでの時間を潰した。

 冬ということで十七時前の時点でだいぶ暗かったが、普通の照明は当然存在するため、暗くても問題なく楽しめた。

「そろそろかな」

 イベントの時間が迫り、リコがスマホで時間を確認しながら呟いた。

 私たち以外の人も随分増えてきた。

 やはり、みんなイルミネーション目当てに集まっているのだろう。

「あちらの方で座れるみたいです」

 薫衣がベンチを発見し、私たちは人混みを避けベンチに座る。

 そして、十七時丁度。

 先程まで点いていた普通の照明が暗くなると同時に、イルミネーションが灯った。


 周囲の木々には、まるで花が咲くように。

 雪像や氷像の台座には、それらを下からライトアップするように。

 会場中央の大きなクリスマスツリーは、輝く雪が積もったように。

 幻想的な美しい世界が、目の前に現れた。


「綺麗……」

 リコが一言漏らし、みんな、それを無言で肯定した。

 しばらくそのまま、ベンチに座ってイルミネーションを眺めていたが……私は、唐突にベンチから立ち上がった。

「あ、あのっ」

 少し前に出て、みんなの方へ振り返る。

「み、皆さんに……お渡ししたいものがあって……」

 ショルダーバックをごそごそ漁り、中から小さな箱の包みを取り出した。

「ク、クリスマスプレゼントです!」

 リコ、ばにら、蜜羽、薫衣、桃黄子に、ひとりずつプレゼントを渡して回る。

「あー……ももち、このシチュでプレゼント渡したくてここ来たがってたんだー」

「は、はい……」

 ばにらの揶揄うような視線に、私は目をそらしつつ頬を掻いた。

「あ、開けていいのかよォ――……?」

「も、もちろんです! あ、でも小さいんで落とさないように気を付けてくださいね!」

 蜜羽の確認を皮切りに、みんなプレゼントの包みを開く。

 小さな箱の蓋を開けると、そこに入っていたのは――。

「ピンキーリング……!」

 薫衣の嬉しそうな声。

 以前、桃黄子にだけあげたピンキーリングの、全員分だ。

 指の太さに関しては、たまに学校で居眠りしてたり、いつものホテルでお昼寝してたりすることがあったので、その時こっそり計測した!

 ぶっちゃけ言えば測らせて貰えたとは思うけど! サプライズがしたかったんじゃい!

「あ、桃黄子だけピンキーリング先渡し済みなんで、同じ指輪じゃアレかと思ってリング型のブローチなんですが……」

「え~、わざわざ違うの考えてくれたの? 指輪二つ目でもよかったのに~♡」

 ニヤニヤしながら桃黄子がブローチを眺める。


 リコにはガーネット風の深紅で三角形の石。

 ばにらにはシトリン風の黄色で星型の石。

 蜜羽にはトパーズ風の黄褐色で丸い石。

 薫衣にはアメジスト風の紫で六角形の石。

 そして前に桃黄子が選んだのは、アンバー風のオレンジで菱形の石。


「で、お揃いにしたかったのですが……ピンキーリングなだけあって小指サイズしか売ってなかったので……」

 私は、さらにバッグから箱を取り出し、全員とお揃いの指輪を全部取り出す。

 その指輪を右手の小指に三種類、左手の小指に二種類装着。

「こう……しようかなと」

「なんかパンクロッカーみたいになってない!?」

 桃黄子がツッコミを入れたが、実際私もちょっとパンク感が生まれてしまったとは思っている……。

「いいんじゃない? 年明けその指で学校行っちゃおうよ」

「それは流石に校則に引っかかりそうなんでやめませんか!?」

 リコの冗談には、私がツッコミを入れておいた。


 ちょっと最後、コミカルな感じになったが……。

 みんなの指に、私のあげた指輪がはまっている様子は……イルミネーションよりも遥かに、胸に来るものがあった。

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