ADHDでも居場所はある

堤さん

第1話 出来ない僕

目覚まし時計のアラームが、頭の奥をガンガン叩いていた。

 止めようとして手を伸ばすが、机の上に置きっぱなしのノートやプリントに腕がぶつかり、床に落ちていく。


 「……またかぁ」


 寝ぼけた声で呟く。

 昨日こそ片づけようと思っていたのに、何も出来ていない。



大学の教室


 授業が始まって、周りの学生たちは静かにノートを取っている。

 シャーペンの音がカリカリと響く中、俺のページは真っ白だった。

 いつも違うことを考えている。


 「……えっと、どこまで話してたっけ」

 教授の声を聞いても、頭に入ってこない。

 書こうとしても、すぐに別のことを考えてしまう。

 気づけば、ノートの端に無意味な落書きばかりが増えていた。


 隣の席のやつがちらっと俺のページを見て、眉をひそめた。

 胸がぎゅっと縮まる。

 ――また、出来ていない。



普通のこと


 「普通にすればいいじゃん」

 昔から、何度も言われた言葉だ。


 忘れ物をしても、宿題を落としても、提出期限を過ぎても。

 「普通にやれば出来ること」を、俺は何度も落としてきた。


 普通に。

 ただそれだけが、俺には一番難しかった。



恋人の存在


 「創真、また課題出してないの?」

 彼女――高橋雪菜が呆れ顔で言った。


 「ごめん……ちょっと、間に合わなくて」

 「ちょっとって……。私、あなたのこと好きだけど、正直こういうのばっかだと疲れるよ」


 最初は優しかった雪菜の言葉も、少しずつ棘を帯びていった。

 俺を支えてくれる存在だと信じていたのに、その優しさはいつの間にか苛立ちに変わっていた。



 机の上に散らばったプリントを前に、俺はただ俯いた。

 ――9割の人が出来ることが、俺には出来ない。

 胸の奥にその言葉が重くのしかかっていた。

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