番外編

番外編1 辺境の食卓


 王都から戻ったあと、俺とユナの暮らしは驚くほど静かだった。

 朝は畑に出て草をむしり、昼は川で洗濯をし、夜は縫い物と簡単な料理。世界を救った英雄の生活としては拍子抜けするほどだが、俺にはこれが一番性に合っていた。


 「リオ、今日のスープはどう?」

 ユナが鍋をかき回し、味見の匙を差し出す。

 「……うまい。けど塩がちょっと足りないな」

 「やっぱり雑用っぽい指摘だよね」

 笑い合う声が小屋に響く。


 扉を叩く音がした。訪ねてきたのは、かつて救った村の少年ルオだった。

 「リオさん、父さんたちが布を織り直したいって。手伝ってくれませんか?」


 俺は針を手に取り、笑った。

 「よし、段取りしよう」


番外編2 王都の再建


 レオン率いる勇者隊は王都の広場で新たな布を掲げた。

 「これは雑用の糸――リオが繋いだ証だ」

 民衆が歓声を上げ、旗が風にたなびく。


 アリスは笑いながら火を灯し、ミレイの祈りが光を添える。ガロは相変わらず寡黙に盾を磨いていた。

 「雑用に任せきりにはできないからな。俺たちも、ここから繋ぐ番だ」

 レオンの言葉に、人々の瞳が輝いた。


番外編3 セレスの旅


 白糸の女セレスは、ひとり北へ向かっていた。

 彼女の目的は残された縫い手たちを探し出し、解縫で自由にすること。

 「リオ、あなたの段取りを見習うわ」

 小さく呟き、白糸を指に結ぶ。


 遠くで黒い残滓が揺らいだ。黒紡会は消えた。だが人の悲しみから生まれる糸は、まだ世界に残っている。

 セレスは針を構え、夜の森へと進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追放された雑用係の俺、実は世界唯一の万能スキル持ちでした~スローライフしながら気づけば神々も美少女も跪いてきた件~ 妙原奇天/KITEN Myohara @okitashizuka_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ