第16話 夜のしるし

夜はしんと静まり返っていた。

カーテンの隙間から覗く夜空に、雲の影がゆっくりと流れていく。

机の上のランプだけが、小さく光を落としていた。


いろははペンを置き、深く息を吐く。

長い制作の時間を終えても、胸の奥はまだ温かく燃えている。


そのとき——

つづりの刻印が、やわらかな白を帯びて脈打った。

まるで呼吸するみたいに、静かであたたかく。


いろははその変化に気づかない。

けれど、つづりの指先にはわずかな震えが走っていた。

——近づいている。何かが。


(……捕まるわけにはいかない)

心の奥で、熱を帯びた焦燥が音もなく広がった。

袖の下で握られた拳に、白い刻印が小さく脈を打つ。


夜の静寂の中で、ページを閉じる音がやけに大きく響いた。

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