第19話旅路と火種とおじさん
王都へ向かう道は長く、馬車で数日を要する。俺とリーナ、セリアは同じ馬車に揺られながら進んでいた。
森の中を抜けると、道端で小さな村の子どもたちが手を振ってくる。俺たちが“レンアイの布教者”として知られているのか、好奇の目が集まった。
「旅人さま、あの子たちに手を振ってあげましょう」
リーナが笑顔で言い、俺と並んで窓から手を振る。
その横でセリアは、少し冷めた声を漏らした。
「……浮かれている場合ではありません。王都は村とは違う。敵意を向けられるかもしれないのですよ」
空気が一瞬重くなる。リーナは俯き、小さく呟いた。
「でも……旅人さまの言葉を待っている人がいるなら、笑顔で届けたいんです」
セリアが何か言いかけたが、俺は割って入った。
「二人とも……ありがとう。どちらの考えも正しい。緊張も、笑顔も、どっちも必要だ」
その場は収まったが、馬車の中の空気は微妙なままだった。
夜。野営地で焚き火を囲む。
セリアは剣を磨き、リーナは焚き火の世話をしている。沈黙が長く続いたあと、セリアが不意に口を開いた。
「旅人さま。……あなたがリーナを選んだこと、理解はしています」
リーナの手が止まり、火がぱちりと音を立てる。
「ですが、それでも私はあなたを尊敬しています。任務や忠誠ではなく、人を“選ぶ”勇気を示したから」
その言葉は真剣だった。けれどリーナの胸には棘のように刺さったのだろう。
「……尊敬だけ、ですか?」
思わず漏れたリーナの声には、嫉妬と不安が混ざっていた。
セリアはリーナを見つめ、少しだけ微笑んだ。
「そうですね。今は“尊敬”です。ですが、それが別の感情に変わるかどうか……私にも分かりません」
焚き火が弾け、俺の胸もざわついた。
――この旅路は、王都に着く前から試練だった。布教者としての使命だけじゃない。リーナとセリア、二人の心が交わるその狭間で、俺自身が揺さぶられている。
火の粉が夜空に散る。王都はまだ遠い。だが、俺たち三人の間にはすでに“火種”が生まれていた。
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後書き
第19話では、王都への旅の道中でリーナとセリアの緊張が高まり、三角関係の“火種”が描かれました。
リーナは嫉妬を抑えきれず、セリアも自分の心がどう動くか分からないと正直に告げます。
おじさんは布教者としての責任だけでなく、二人の間で揺れる自分の心とも向き合わざるを得なくなりました。
次回は、王都に到着し、議会で“レンアイ”を説明する重大な場面が描かれます。
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