エピローグ
――五年が過ぎた。
防衛省での教導任務は二年で一区切りとなり、老兵・浦見重蔵は再び自宅で穏やかな生活に戻っていた。
かつて世界中を熱狂させた『ゾンビ・オブ・パニック:最終戦線』は続編が重ねられ、
『ゾンパニF2』
『ゾンパニF3』
と進み――そして現在は最終章と銘打たれた
『ゾンパニFe(The end)』が残るのみ。
熱狂は、いつか風のように去るものだ。
JZ-65の名も、今では“知る人ぞ知る伝説”に変わっていた。
重蔵の配信は週一。
いや、最近では二週に一度になっていた。
TACTは夢だったプロリーグに入り、海外を転戦する選手となった。
翔も国内リーグで名を上げ、若いスターとして活躍している。
昔の四人でゾンパニを遊んだのは、この三年で二度ほど。
だが美羽だけは変わらなかった。
どんな日でも、どんな時間でも、配信の隣には美羽がいた。
「じいじー!」
ある日曜の昼下がり。
美羽は、すっかり背が伸びて、16歳になっていた。
重蔵は麦茶をすすりながら返す。
「なんじゃ。年寄りは突然走られると心臓が止まるぞ」
「止まらないよ。止まらないでね。まだ困るから」
笑いながら、美羽が小さなタブレットを差し出した。
「じいじ、これ。すごいゲーム出たよ」
画面には――新作タイトル。
フルダイブVRRPG《Echoes of Logos》
「プレイヤーの“記憶・経験・精神性”そのものが、そのままスキルになるんだって」
「記憶、経験、精神性……?」
「うん。コントローラーもキーマウもいらないの。
考えたとおりに、身体が動くらしいよ」
重蔵は眉を上げる。
「なんじゃと。まるで……本物の戦場ではないか」
「逆に言えば、年季の差がモロに出るってことだね」
「年寄りに有利というわけじゃな。わしの人生、無駄ではなかったということじゃ」
「それを誇らしげに言うの、じいじだけだよ!」
ふたりは声をあげて笑った。
しばらくして、重蔵が椅子から立ち上がる。
「よし、美羽。わしは再び参る」
「いくんだね?」
「うむ。まだ歩ける。なら歩くのが老人の礼儀じゃ」
「じゃあ、名前はどうする? JZ-65は伝説になっちゃったし」
重蔵は、少しだけ照れた顔をした。
「ならば、年齢相応に更新じゃ。
――JZ-70 でどうだ」
美羽は嬉しそうに頷いた。
「いいね。それ、めっちゃかっこいい」
「この老兵、また世界へ遊びに行くとしよう」
「第2章の開幕だね」
「いや――」
重蔵は微笑む。
「ここからが本編じゃ」
夕光が二人を包む。
新しいログイン画面が光る。
こうして。
老兵は再び、物語へと足を踏み入れた。
名は――JZ-70。
伝説は薄れるものではない。
更新され続けるものなのだ。
完
最終戦線の老兵 ―JZ-65伝説― ちょいシン @tyoisin
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