第五章・第五節 老兵、決勝に立つ
会場の照明が落ち、ステージに巨大スクリーンが浮かび上がった。
観客の歓声が、波のように押し寄せては引いていく。
ゲームタイトルが高らかに映し出された。
『ゾンビ・オブ・パニック:最終戦線(ゾンパニF) 決勝ラウンド』――開幕。
「よっしゃああああ! いくぞ、じいじッ!」
「落ち着け翔、指が滑るぞ」
「じいじ、また“精神統一”してる!」
「黙って見とけ、ワシの“呼吸リロード”は時間がかかる」
JZ-65――老兵・重蔵は、眉間に
TACT、翔、美羽の若者三人は、緊張と興奮のあいだで声を上げる。
「敵、右の高台! スナイパー2!」
「了解、翔! 牽制入れる!」
「TACT、左ルート押さえろ!」
「イエッサー!」
重蔵の号令のもと、三人が素早く動く。
若者たちの反応速度、そして老兵の経験が、見事にかみ合っていた。
「ワシが前に出る」
「え、じいじ!? それ危ないって!」
「ふっ……“危ない”からこそ燃えるのが、老兵じゃろうが」
重蔵が笑った瞬間、画面の中で爆炎が上がった。
敵の投げたグレネードの爆心地へ、彼は自ら突っ込んだのだ。
「じいじ、爆風で吹っ飛んだ!?」
「……いや、違うッ! ジャンプキャンセルして空中リロードしてる!?」
「そんなのバグ技レベルだよ!?」
「バグでも何でもええ。“生き残る”ためならな」
老兵の指が、信じられない速さでキーボードを叩いていた。
十代のTACTが、思わず声を上げる。
「JZさん……マジ、神指(ゴッドフィンガー)っす!」
決勝戦は、最後のエリア「終末の塔」へと突入した。
敵チームも全員生存。互角の展開だ。
「翔、援護頼む!」
「了解! だけど弾がもう――」
「よし、美羽、回復ドローン出せ!」
「え、でも充電が――」
「出せ!」
「じいじの声が怖い!」
笑いと緊張の中、四人は限界を超えていった。
息が合い、指が走り、声が重なる。
「右下、敵スナイパー!」
「潰す!」
「ナイスカバー!」
「翔、上だ!」
「了解っ!」
そして――。
爆煙の向こう、塔の頂上で敵リーダーが待ち構えていた。
JZ-65は深呼吸した。
「……この瞬間のために、ワシはここにおる」
静かな声。
その瞬間、画面の老兵キャラが、敵の照準をかいくぐり――。
「“最後の一撃”だぁあああああ!!」
若者たちと共に、渾身のコンボを叩き込む。
連携による超必殺。
閃光が画面を覆い、爆音が会場に響いた。
勝利の文字が、スクリーンに浮かび上がった。
観客席から歓声が轟き、TACTはキーマウから手を放し両手を上げ叫んだ。
「勝ったぁあああ!! JZさん、最高っす!!」
「じいじ、やったね!!」
「ふ……ワシの指も、まだ捨てたもんじゃないのぉ」
その顔には、汗と笑みと、ほんの少しの涙が光っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます