第一章・第四節 じいじ、世界デビュー

「じいじ、さっきの土下座ジャンプ、やばすぎてお腹痛い!」

 美羽は笑い転げながら、ゲーム機の録画機能をぽちっと押した。

 何気なく保存した数分間の映像。

 それは、重蔵が味方を殴り、回復で爆死し、最後に真顔で「うむ、修行が足りん」とつぶやいた一連の場面だった。


「ちょっと、友達に見せよっと」

 軽い気持ちでスマホに映像を転送し、SNSにアップする。

 添えたコメントは――

《うちのじいじ、ゾンパニ下手すぎて逆に神》


 数時間後。

 重蔵は湯呑みを片手に「水戸黄門」を見ていた。

 その背中で、美羽のスマホがけたたましく震える。


「……え、通知止まんないんだけど!?」


 画面には「いいね!」「リツイート」「フォロー」の嵐。

 再生回数はうなぎ登り、コメント欄は笑いで溢れていた。


《伝説のポンコツおじいちゃん爆誕》

《JZ-65ってネーミング天才》

《回復で爆死は腹筋に悪いwww》

《これぞ和製Mr.ビーン》


「じ、じいじ……! 今、世界中で見られてるよ!」

「なんと……わしが……?」


 重蔵は驚いて眉をひそめる。

 だが、美羽の顔は誇らしげだった。


「みんな、じいじのこと面白いって! ほら、外国からもコメント来てる!」

「ええと……“so funny grandpa”…ふぁにーぐらんぱ? 笑われとるのか、わしは」

「違うよ! 笑わせてるの!」


 その言葉に、重蔵の胸の奥で何かが震えた。

 自分の失敗が、誰かを笑顔にしている――。

 それは、長い間忘れていた感覚だった。


 その夜。

 美羽のスマホには新しい通知が流れ続ける。

 そしてコメント欄の一角には、こう刻まれていた。


《JZ-65、次の配信はいつですか?》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る