無音より静寂

@Osio5511

第1話 とあるカフェにて

オフィスから歩いて数分、テラス席に座りながら僕は夢想した。


夏の面影は薄れてときどき訪れる肌寒さが季節の移り変わりを知らせてくれる。空が雲に覆われているが所々青さが垣間見えている。樹々の葉はやや黄色味がかっており、これからの紅葉に備えているようだった。


朝っぱらからカフェに入り浸っている。アイスコーヒー一杯と数本のタバコ、そしてスマホさえあれば何時間でも満足できそうだ。


コーヒーカップから垂れる水滴、その水滴がカップの底を縁取り、コーヒーを飲むたびにテーブルに新しい跡が生まれる。服に水滴が

垂れるのを嫌ってか、僕は飲む前に毎回カップを揺らしてから手元に持ってきた。それでも垂れる水滴には苦笑いするしかなかった。


ふと人生について考えていた。生まれて干支が二周以上しているが、これが後五周もするのかと。人によって捉え方はいっぱいあるのだろう、長短や幸不幸など。死ぬのが決まっている中で僕は何のために生まれたのかを、僕はこの小説を通して考えていこうと思う。


僕を取り巻く概念から人生が何なのかを考えようと思う。それは友人でも家族でも仕事でも何でもいい。それらを通して人生とは何なのかが分かればいいのだから。


それで言うと、「カフェ」を通して僕の人生を考えようと思う。


カフェから見た僕は客である。日々数百人お店に来る人達の内の一人だ。僕が求められている事はコーヒーを買って、静かに飲んで、席を立つ事なんだろう。店員からしてみれば、なんか毎朝来てくれるロン毛の客がいる程度でしかない。


僕もコーヒーを買えば、タバコも吸えて始業時間までゆっくりできる場所という認識だ。同じ場所にいながら、お互いがそこまで干渉しない、必要最低限の距離感が僕にとって丁度いいのかもと思っている。


僕の人生を振り返ってみると確かにそうだなと思える。沈黙に耐えられず無理に話しかけてくる人やガツガツ内心に入ってくる人とは距離を置いていた。どうもそのタイプの人達と関わると心が疲弊してしまう。


だから、丁度いい距離感が保てるかが僕の人生の一部か指針なのだと考えた。そして、その丁度いいの塩梅は、お互いの目的が重なった時に必要最低限に関われる程度なのだろう。恐らくこれからの人生、僕は丁度いい距離感を持って生きていくのだろう。


次に「丁度いい距離感」が僕の人生に何をもたらすかを考えよう。


前述の通り、丁度いい距離感が無いことによって、僕の心は疲弊してしまう。何故なのか、理由があまり思いつかない。そういう性質である、と言えばそれだけなのだが…… それだけだと味気ないので、心が疲弊すると本来自分が出来ることが出来なくたってしまうからだと仮定しよう。あと、心を疲弊するものに対して、苛立ちを感じてしまうのもある。


他者と関わる為にエネルギーがかかる。そのエネルギーのキャパは人によって違うが、僕のそれは圧倒的に少ない。また、人によってエネルギーの回復する方法も量も違う。僕の回復方法は、人と関わらない事だと思っている。


その事から、丁度いい距離感、つまり、お互いの利益が重なっている最低限の距離感を維持することが、そのエネルギーをそこまで消費せずに自分事にエネルギーを使える事をもたらしているのだろう。


そろそろ時間になったので、纏めてみよう。

僕は「カフェ」を通して、人生について考えた結果、僕は「丁度いい距離感」を持って「他」と「自」の調和を図っている事になった。その後の人生も恐らく「丁度いい距離感」がベースになっていくのだと思う。


灰皿には五本のタバコ、既に氷が溶け切ったコーヒー。人の出入りが激しくなったテラス、僕はこれから職場に向かう。

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