第8話

次に目を覚ますと、何故かソファーで眠っていた筈なのに、ベットで横になっている上に、真横にはレオンが添い寝のような形で横で眠っていた。


また、勝手に部屋に入られた。

よくあることだ。眠っている間に入られることは常に、最悪なのは着替えの時に入ってくる時だ。

女性のように膨らみがあるわけではない体を上から下までじっと見られた時には流石に、部屋から追い出した。


一度で懲りると思えば、週一回ペースで着替えのタイミングに魔法で現れるのだ。

女性の体のように特徴あるわけでもなく、だからと言って男性らしく筋肉がついているわけでもない。

言うなればペラペラな体だ。

何が面白いのかと思い、聞いてみたことがある。


『それは、婚約者の体を見たいという欲望が‥』


と、言って語っていたが、途中で頭が痛くなってきて聞くのをやめた。


現在。

隣で当たり前のように寝こけているレオンの顔を見る。


(理想の王子様‥。まぁ、すぐに飽きるんだろうけど)


起こすこともせず、ベットから起き上がりソファーに腰掛け、テーブルの上にあるベルを鳴らす。

このベルは、どうやら魔法道具の一種らしく自分の従者、僕の場合シークを呼ぶ時に使う専用のベルらしい。


ベルを鳴らしてそんなに経ってもいない間にノックの音と共にシークの声が聞こえる。


「お呼びでしょうか」


「お菓子とお茶お願いできる?三人分」


三人と聞いてベットで寝こけている、レオンを見て笑みを浮かべて、準備をしに行った。


本当は二人分。シークと僕の分だけで良いのだが、前にそれをやったらレオンは、僕に引っ付いてしつこく文句を言われたのを覚えている。


『俺の分は無いのか‥俺は舞の婚約者なのに』


それは、しつこく迫られてそれからレオンがいる時はシーク含めて三人分用意させるようにした。

ソファーでくつろぎため息を吐いて、肩の力を抜く。


(やっぱり、夜の方が眠くない‥昼夜逆転にしてはいきすぎに感じる‥)


この世界に来てから変わっていく僕の体に疑問ばかり浮かぶ。

陽には弱くなり、昼間は眠い。

疲れか何かと思えばそうでもないと思う。

そう、考え込んでいると背後から誰かから抱きしめられる。

誰かなんて、わかりきっているわけだが。


「‥俺を置いてベットから抜け出すとは」


まだ寝ぼけているのか、何処か呂律が回っていない物言いに先程までの思考を止めて、抱きしめられている手を退かす。


「子供じゃ無いだろ。それに、僕に気安く触るな」


そうすると、隣に腰掛けたレオンは先ほどより暑苦しく抱きついてくる。

うっとおしい。レオンの腕の中でもがくも力差は、やはりレオンの方が遙上だ。


諦めずにもがいていると、ドアの方から音がしてそちらを見れば、シークがこちらに穴が空くくらいの眼差しで凝視していた。


「シ、シーク?」


「お気になさらず。私はここにいませんので」


「は?‥というか、良い加減退け!お茶が冷める!」


そう言えば、渋々といった感じでレオンは離れていった。

シークはシークで拳を作りながら悔しそうにしていた。


時は経ち、向かいのソファーにはシーク。

隣にはレオンが座り、お茶会の始まりだ。


可愛いお菓子が並び、それを手に取り食べるのが至福の時間の一つでもある。


「舞、口元についてる」


「あ、そういうのいいから」


レオンに口元の生クリームを拭われる前に、自分でハンカチで拭う。

それを見てシークは何故か瞳をキラキラさせてこちらを見ている。


「やはり、素敵です!レオン殿下と舞様は、お似合いです!」


「いや、どこが‥「そうだな、俺と舞はお似合いだ」」


(いや、自分で言うのかよ)


この王子、最初出会った時から大分キャラが変わってきてるように感じる。

最初は無表情でクールで冷徹かと思いきや、日を重ねるごとに、表情の読み取りができるようになってきて、天然というかしつこいというか。

段々とこの王子が丸くなって見えてきた。


「シークお茶のおかわりもらってもいい?」


「はい!」


本日三杯目の紅茶を注いでもらいカップに口をつける。

シークの淹れる紅茶はどれもおいしい。

だから、何杯もおかわりしてしまうのもあるのだが、最近喉が渇いてならないのだ。

体調に何か変化あるわけでもないのだが、喉だけ異様に渇く。


「舞は本当に、シークの淹れる紅茶が好きなんだね」


僅かに微笑んで言うレオン。

どこか、穏やかな環境に置かれているようで何かを隠されているのは明白だ。

そう、まるで鳥籠の中の鳥のような気分だ。

やはり、今まで避けていたが聞くべきか。

シークは顔に出やすく必死に隠しているだろうが、それはほぼ無意味。

この二人が隠していることはきっと一緒の隠し事。

聞いてしまったら何かいけないことかと、不安を持ち聞かなかったが、先ほどあげたような体の変化もある。


「ねぇ、何か僕に隠してるよね?言ってくれない?」


カップをソーサーに置く音が響く。

その場の和やかな空気は凍り、レオンは何処か影を使った顔をした。

シークはシークで性格上の問題か、わたわたと慌てていた。

しばらくの沈黙。レオンはため息をついた。


「シーク、悪いが舞と二人にしてくれないか?」


「は、はい!」


何処か重苦しい声でレオンが言えば、シークは小走りで部屋を出ていった。

レオンは立ち上がり窓辺まで行き、カーテンを開けてそこからは、美しい月が見えた。


「舞、お前は吸血鬼だ」


振り返ったレオンは、こちらを射抜くような眼差しで言った。

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