王子様は可愛い僕が好き

ルイ

第1話

昔見た絵本の中の女の子着ている洋服や、リボンが可愛くてその本を何度も読んだ。


可愛いものが大好き

フリルのついたスカートもブラウス

色とりどりのリボンも全部大好き。


だから、僕は絵本の中の女の子のように可愛いくなりたかった。

だって、こんなにもキラキラしていて、こんなにもワクワクするのは、初めてだから。

だから、幼い頃初めて髪にリボンをつけて見た。

きっと、「可愛い」って言ってくれる。

そう言ってくれるものだと思ってた。


『気持ち悪い』


『男なのにそんな格好』


初めて両親に見せたその姿に向けられた目線は、異物を見るそれだった。



どうして?


だって、可愛いじゃん

フリルだってリボンだってこんなに可愛い


その時は、まだわからなかった。

自分が産まれてきた性というしがらみが、僕の可愛いを異物にすることを。

それでも、諦めたくなくて髪を伸ばした。

毎日間日慣れ無い手つきで二つに結んで、学校にも行った。制服はどうにもならなかったけど、それでも可愛いを諦めきれなかった。

学校の皆は、遠巻きに見るようになったけど可愛いのためなら気にならなかった。

もっともっと可愛くなるためにバイトも初めて、毎日可愛くなる僕を唯一の友達の「メル」にだけ見せて楽しんだ。


僕が小さい頃にもらった、人形。

白くてふわふわで、ピンクと少し赤みがかった瞳が可愛い人形。

『きっと、君の願いを叶えてくれる』

確かメルをくれた人は、そう言っていた。

その不思議な体験に、幼いながら一つだけ持った憧れがあった。

その憧れの夢と共に心を強く可愛いを探究し続けた。


女性用雑誌も買って、メイクの勉強だってしてその時間も楽しくて、メルと話して毎日が過ぎていった。

毎日が充実していて、それで良いと思ってた。

だけど、人は人の違うところに指を刺すのだ。


それは、学校帰りに聞こえた空き教室の中での男女のグループの会話に思わず、足が止まってバレないようにしゃがんで聞き耳を立てた。


「ねぇ、吹雪のあれってなんなの?」


「あー、わかんねぇ‥でも、見ててウケる」


笑い声を上げる男女のグループの会話に「またか」と思いその場を去ろうとするが、次の男子生徒の言葉に再び足が止まった。


「でもさ、男なんだから男の格好しろよって思う!」


「いや!それな?まじでなんなんキモいんだけど」


その内会話が耳に入らなくなって、その場を動けず、ただただゆっくりとその毒は、身体中を巡った。

いつものことだ。

気にすることなんて、一つもない。

なのに、なんだろう。今まで目を逸らしてたものから、強制的に目を向けられるのは。


『男』


その、一文字にいつも足を取られる。

胸に手を触れても膨らみだって無いし、女の子みたいに柔らかい体じゃ無い。

でも、だから何だっていうんだ。

可愛いものを好きでいては、いけない理由になるのか。

可愛い僕が大好きなんだ。

ただ、それだけなんだ。

それでも、周囲の目線も言葉も変わらない。


「僕が間違ってる?」


ふと、僕の口から出た言葉を疑った。

吐いた言葉を戻すように口元を抑えるがもう、遅い。

間違ってるなんて、僕が、僕自身が一番言葉にしたくなかった。

だって、僕の可愛いは僕だけの宝物だから。


そこから、家に帰って部屋に閉じこもってメルを抱きしめると涙が溢れた。

可愛いフリルとリボン。

可愛いツインテールに、メイク道具だって全部全部僕の宝物。

男だからって関係ない。

周りが何って言おうと関係ない。

なのに、今日僕は僕の大切な宝物を汚してしまった。


「違う‥!違う!僕だけは、可愛い僕を愛しているんだ!」


否定をしたところで先ほどの言葉は取り消せない。

結局、僕自身も一緒なんじゃないか。

周りと何ら変わりない。目を逸らしていた性について、逸らしてる時点でおかしいって思う僕が僕の中のどこかに居た筈だ。

何が正しいのか、可愛い僕はそんなに「異物」のレッテルを貼られるまで間違っているのか。

そこまで考えて頭の中はごちゃごちゃになって

メルをひたすら抱きしめた。


メルと友達になった日に見た憧れ。

きっと、いつか叶うと信じていた憧れ。

何でこんな状況で思い出すのだろう。


「王子様に会いたい」


気づけば震える声で口にしていた言葉。


僕だけを、ありのままの僕を愛してくれる優しい王子様。

昔読んだ絵本に出てくる王子様は、優しくて僕もこんな王子様と結婚して


「可愛い」


って、言ってくれて愛してくれる僕だけの王子様。


こんな、メイクも髪も崩れて可愛くない僕を迎えに来てくれる王子様なんて居ないだろうな、なんて悲観的になってしまう。

それでも願ってしまう。

いつか、いつでもいい。かっこいい王子様が僕の手を引いてくれる日を待ち望んで。


そう、願いを込めてメルを見つめても何も起こらないことを知ると、涙がさらに溢れそうになる瞬間辺りが光出した。


「な、なに‥?!」


光に包まれる中、目を瞑った。


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