怪喫茶店、茶の間
カズマッチ
第1話 OPEN
「ようやく…夢が叶うのかな」、そう呟きつつ私は喫茶店の開店準備を進める、20歳の頃に就職し御年35歳になるまで働いた、しかし私は夢を諦めきれず先月腹を決めて準備を進めこの喫茶店を経営していくことにした…やはり一度でも心からやりたいと願ったものはそう簡単には諦められなかったのだろう…、現に今回この店を開くとなってから思いつきでの行動が殆どであった、しかし運良く問題も起きず今こうして開店準備をするにまで至ったのだ…人生何があるか分からないというが…ここまで上手く行くことは早々ないだろう。しかし…長年の勘のせいか何やら嫌な予感がする、必ず悪いことが起きる…と断言できないにも関わらず不安は積もっていくばかりだ。まぁ…初めての喫茶店経営なのだ…不安になっても仕方がないと自分に言い聞かせ最後にテーブルを吹き上げ見落としがないか確認する。そしてOPENの札を扉にかけ店を開いた、そのワクワクは先程の不安を一気に吹き飛ばすものだった…まるで幼い子どもがずっと欲しかったおもちゃやゲーム機を買ってもらいその箱を開けるときのようなそんなワクワクだ、しかし…そんなワクワクがあったとて客が来るとは到底思えなかった。少し前からビラを配ったりポスターを貼ったりしたものの、この令和の時代そんなもので来るような客が居るのだろうか…昨今SNSが主流となった今ビラだのポスターだのと古臭いやり方なのはよくわかっている、しかし…長年そんなものに触れてこなかったせいでSNSなんてわからないしXなんて論外だ。せいぜいYouTubeで料理のコツを見たり位はしてきたがたかだかその程度である。それにネットで広告をだそうにも金がかかる、少なくとも今の私にはそんな金はない…なんだか高校生の頃を思い出すものだ。そう思いつつコーヒー用の豆を挽いていると扉についている鈴がなった、……まさか本当に客が来てくれるとは。内心驚きつつできるだけにこやかに「いらっしゃいませ!」と客に挨拶する。……それがいけなかったかもしれない、いや…どちらにせよ声をかけざるを得なかったか…、挨拶しその顔を見上げてみると…蛇だった、ただの蛇ではなくまるでろくろ首のように人間の胴体から蛇の頭が出てきていた。服装は綺麗な黒い生地に金の装飾が施された着物でまるで極道の妻を思わせるようなそんな服装だった。私はもう終わるのかと瞬時に理解したがそれでも初めて来てくれた客人だ。殺されるといえどもてなしはしなければならない。「こ…こちらの席にどうぞ」となるべく笑顔を崩さず蛇を席へ案内した。「ご注文が決まりましたらこちらでお呼びください」と私は金を渡す、何故鐘にしたのかと言われればただ洒落ているからである。そして蛇は渡されたメニュー表をしばらく眺めている。…蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことだ…心臓は早鐘を打ち冷や汗がだらだらと流れている。そうしてしばらくすると蛇はメニュー表から目を離しベルを鳴らした「ご注文お決まりでしょうか」私は死を覚悟して蛇に聞いた(…これをください)と蛇が指差したのはコーヒーとサンドイッチだった。お前を食べると言われなかっただけ少し安心した、「承知しました、少しお待ちください」私はそう言ってカウンター裏の厨房へ向かう
コーヒー豆自体は既に炒ってあるので先程挽いておいた豆でコーヒーを淹れその間にサンドイッチを作る、一般的なサンドイッチと言えば基本ハムとレタスを挟んだサンドイッチだろう、私はハムだけでなく薄切りにした赤ウインナー、レタス、そしてポテトサラダを挟む。私が店を建てた場所はちょうど会社員や土木作業員が多く通る道だ。なのでなるべくボリュームのある食べ物を出そうと考えていた。実際私が会社員だった頃ももそういったお店にはホントに助かっていた、味付けはマヨネーズとマスタード、そしてマスタードを使うのだが何を隠そううちのマスタードは自家製のものを使っている。なるべく子供でも食べれるように辛さを抑え香りや味を楽しんでもらいたく頑張って研究したのだ。さて…コーヒーも出来上がったようだ。私の所のコーヒーは少し変わっているかもしれないが少量のお湯を入れる、そうすることであっさりと飲みやすいコーヒーになることを高校生の頃偶然見つけたのだ。
「おまたせしました、コーヒーとサンドイッチになります」私がテーブルの上に料理を出すと蛇の目が光っていた、よほど美味しそうに見えたのだろうか…はたまたそうなるほどにまで空腹だったのか、しかし喜んでくれるなら本望である。そうして蛇はまずコーヒーから飲む、少し驚いたような反応を見せ軽く頷いている…どうやら好みの味だったようだ、そうして本題であるサンドイッチ、私は好きなのだがいかんせん赤ウインナーを入れたサンドイッチなんて少なくとも売っているところを見たことがない、あの蛇の口に合うのか…と考えている間に蛇はサンドイッチを頬張る……その目は先程よりもより輝き一口…また一口とサンドイッチを頬張っている、少し経つと既にサンドイッチを完食しておりコーヒーも飲み干していた。余程美味しかったのか先程の睨むような顔から笑顔になっている。そしてカウンターまで来ると(お支払をお願いします…)とまさか金を払ってくれるとは…と少し驚きつつ「わかりました」と返事をする「700円です」と値段を見せる(……心配なくらい安い…)とあまりに安いからなのか口に出ていた。それもそうだ、普通なら1品700円であろうものをワンコインで出しているのだから、しかしこれでいい。結局くたばるなら最初から安くしたって代わりはしないとヤケクソな値段設定であった(これで…お願いします…)と渡されたのはなんと江戸の銅貨や銀貨であった。…そこは古いままなのかと目を開き調べながら計算すると700円ちょうどであった、まぁ…結局潰れるだろうしいいかとワタシハ軽々しく考えお金を受け取る「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」と言うと(また来るわ…)と向こうが返事を返した、余程あのサンドイッチとコーヒーが気に入ったのだろう。しかし…最初の客がまさか人外が来るとは…見たことなさすぎて妖怪なのか怪異なのかどちらで言えばいいのかがわからないものだ。私は心の底から安堵し膝から崩れ落ちる「……食われるかと思った…」誰だってこのような事が起きようやく事が終わればこうなるだろう、ならなかったら余程の阿呆か天然なのだろう。しかしここは喫茶店、開店したてでもいつ客が来るのかは分からない、私はすぐに立ち上がり軽く片付けをしながら皿洗いをしその後豆を挽く、しかしその後は近所の老人やランニングをしている人、狙い通り会社員や土木作業員の人達がまるで最初から狙っていたかの 如く来店してきたのだ、そうして閉店時間となり売上を数える、まさか初日から黒字になるとは思わなかった…そして一つ不可解な事がある、あの蛇からもらった銅貨や銀貨がなくなっている…しかし売上額を見るとズレはない、恐らく現代の効果になったのだろうが…いつの間にこうなったのか…そもそも変わるのなら最初から硬化で良かったのではないかと疑問を持ちその日は閉店した、明日仕込みを済ませこの日は店じまいとする…これ以上嫌な予感が当たらないことを祈って。
怪喫茶店、茶の間 カズマッチ @kazumatthi
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