第34話 花火
「おい、春日!大丈夫か、おま……え……」
夏目と囲炉裏が、二人に駆け寄る。
「えっ………あ!!夏目、囲炉裏!?大変なんだ、紅葉がっ………」
「なんだって、春陽じゃなくそっちか!!早く診せろ、………あ、なーんだ。………全く、手間のかかるカップルだよ」
「え?」
「よく見ろ、その幸せそうな顔。お前とおんなじ病気だ。ほっときゃそのうち起きる。……って事は、お前ら両思いだったわけね?」
「あっ…………あはは………そーなの。良かった、まさかこんなことになるなんて」
「そうかぁ?傍から見たらもう、明日にでも付き合うんじゃ無いかって。自分は思ってたけど」
「んなことより体拭けよぉ?びっっちょびちょだぞおい。俺達はお邪魔だろうからここから退くけど、あとちょっとで花火だぞ」
「え、花火?」
スマホを開いて、夏目が春陽に、花火大会公式SNSを見せる。
「そう。正式に打ち上げ決定。良かったな、遂に花火見れるぞ?あと………」
「あと?」
「お前ら、その………ポテトと唐揚げ、早めにちゃんと喰えよな。なんなら、無理だったら貰うぜ?」
「いや。これは僕たちの問題だから。全部食べるよ」
「……仕方ないね。わかった。それじゃ、俺達はお邪魔だろうから失礼するぜ。……春陽」
「何?夏目」
「……お前、今めっちゃ良い顔してるぜ。」
「決まってるじゃん。こんなに幸せなことはない」
「そっか。良かった」
夏目が、春陽に背を向ける。それに追従して、囲炉裏も。
「じゃあな。楽しめよ」
「自分からも。おめでとう」
夏目と囲炉裏が去って、紅葉が起きる。
「えっ………わっ、春陽っ!!!おっ、お、俺っ」
「……フフ。僕たち、不用意に触れ合えないね。難儀だよ、これからの一生は」
「あ………そういうこと。良かった………なんか、夢でも見てたのかと思った。すごく晴れてるし…」
「夢じゃないよ。ほら」
春陽が、ほっぺたにキスをして、それから、空を指さす。
「花火が上がる。見よう。二人で」
「…………うん。春陽、その………」
「何?」
頭を掻いた紅葉が、俯く。
「あっ、あんまりドキドキさせないでください…………」
「…………善処します」
大きな花火が打ち上がる。
何処かよそよそしい、でも、今までで一番距離の近い春陽と紅葉。それを祝福するように打ち上がる満天の花火。
その未来は、永遠に結ばれる。
「あ…紅葉、ポテトが湿ってる」
「勢いに任せて傘投げ飛ばすからでしょ〜?全く春陽はさぁ〜」
「紅葉にだけは言われたくないんだけどー。傘投げ飛ばして抱きついてきたクセに。食べさせてあげようか」
「それはカンベン。命がいくつあっても足りない」
「まあ、紅葉は?初心者だからね。まだすぐ倒れちゃうでしょうから?容赦してあげる」
「え、この病気って初心者とか慣れとかあるの!?こうなったら攻めまくって、先に気絶させてやろうか」
「いやいや、せっかくの花火が見れなくなるのでカンベン。してください、調子乗りました…ってか!傘!僕たちが勢い任せに吹っ飛ばした傘探しとかないと!」
「マジじゃん、俺もだ!どっ、何処だー!俺たちの傘ーッ」
偽りの無い、喜怒哀楽に満ちた二人を見て笑うように、花火は打ち上がり続ける。
ハートの形のものが打ち上がったにも関わらず二人は傘探しに熱中しており、それを後から夏目と囲炉裏に雑談中の話題に出され、来年こそは!!
と二人が悔しがるのは、また別のお話。
そんな未来に続く、僕─
黒田春陽の大学生活は、こうして、本当に始まったのだった。
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