第18話 雨上がりを目指して

「しっかし…今更だけどすごいな。皆、一回り大きくなったように感じるぜ?」


 チキンステーキプレートをゆっくりと咀嚼する夏目が、ハイペースでポテトを口に放り込む春陽を見つめる。


「確かに。あれから時間が経ったのに、みんなふわっふわだね。さすが最新設備」


 つんつん。紅葉のほっぺたをさり気なくつつく春陽。えーそんなことして大丈夫?と思いつつも、さっき自分が言ったことを思い出して見守ることにする夏目。


 それに対して、まるで当然のことのように涼しい顔をしている紅葉。最初にニンジンを除去して友達に押しつけたヒトと同一人物と思えないくらい、丁寧に食べている。


 食が細いのか、その店の一番小さなカツ丼を、ちょこちょこ食べる囲炉裏が箸を止め、同じように夏目をつつく。


「…え?」


 割と突然のことに、戸惑う夏目。


「おおー。確かにふわふわしてる。なんかちょっと面白いな」


「ほら囲炉裏ぃ〜。夏目が困惑してるでしょ」


「おん…ごめん」


「気をつけなね」


「ハイ」


 紅葉の言葉には、素直におとなしくなる囲炉裏を見て、夏目は笑って返す。


「いや、全然良いよ。つつき返すだけだから。ほれほれ」


 つんつん。夏目の反撃。それに対して、囲炉裏は横目に夏目を見つめて、箸を掴みながら、


「……やめて」


 と返す。恥ずかしそうに。


「照れるんだ。多少は可愛いとこあんじゃ〜ん。そう言えばさぁ〜」


「ん?」


「紅葉と囲炉裏ってさ〜、どういう馴れ初めなの?なんか特殊な温度感だよな。二人は」


「馴れ初めて…カップルじゃないんだから。囲炉裏とはね、4月の頭に鳥サーで会った。その時話して、それ以降仲良くしてる」


「へー。」


「そうそう。紅葉はさ…自分みたいなのにも優しくしてくれるし…自分の友達には勿体ないくらい」


 おやおや?なんか急にしおらしいな。距離感バグってる奴だとは思ってたけど…こっちはこっちで4月の頭に何かあったか?と夏目が思う。


「やだなー。友達にもったいないとか無いよ。ただ、気をつけなねって、前も言ったでしょ」


「お、おう。うん」


 ま、ここを深掘りする必要はないか。とにかく俺は8月に紅葉と春陽のカップルを成立させることに注力しなきゃだし─


「……………」


 ナイフが止まる。


 笑っている。春陽が、ずっと。


「おー。どうした夏目サン。手ぇ止まってますよ」


「おぅ。別に何でもないですけど?囲炉裏も早く食え。このままだとお前だけ残るぞ」


「言われなくとも。えっと…」


 いそいそと、スマホを取り出す囲炉裏。


「連絡先、よかったら交換しません?夏目さん。春陽さんも」


「ほいほい。QRでよろしいか?なんかこう…いい感じに個チャを繋いでおこう。えっと…グループ作る?」


「グループ?ああ、この四人でね。良いんじゃない」


「そう。例えば、れ…………」


 喋りだした囲炉裏のくちばしを夏目が慌てて挟んで止める。たぶんこいつ、恋愛成就大作戦とか、そんなグループ名にする気だ。このタイミングでそんなとんでもないことさせられっかよ!と考えを巡らせた夏目。


 この間わずか0.1秒。


「………んあいおううう………」


 ほらなんかそんな母音が聞こえてくる、案の定!


 鳥はクチバシ塞いでもあんまり喋るのを止められないので、もうここは勢いでグループ名を決めるしかないぜ!


「グルーブ名の決定権は俺が頂く。猫と鳥だ。異論無いな?」


「あう!おんあいおっあああぇ……」


 なんかすごく異論がありそうだけど、なんか余計なこと言おうとしてるんだろうな…という眼差しをした紅葉が、


「オッケー!」


 とサムズアップ。それに追従する形で、春陽がコクコクと、高速で首を縦に振る。


「はいという訳でこれで決まりでーす!はい」


「…ブハッ!!何すんの酸素が…」


「うるさい口だな。また塞いでやろうか…?」


「この少女漫画テンプレ台詞で、こんなときめかないことある?なんかすっごいドキドキするんだけど」


「恐怖による動悸じゃん。夏目怒ってるよ」


「うげ…許して」


「許す。そういう訳だから、また機会があれば遊ぼうぜ。ほら、外」


「お」


「おお〜」


 雲の隙間から、光の筋が街を照らす。うっすらと、虹が出ていた。




 


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