第15話 初めての組み合わせ

「どうも。あっち、どうなってますかね?」


「さーな。でも、まだ数値は正常だ。ギリッギリ」


「あれ?スマホとか、持ち込んでいいんスか?壊れちゃうんじゃ」


「彼の状態を確認する責任があるのでな。コイツは…まぁ、ちょっとお高いスマホだから、壊れないぜ」


「その割には鬼畜なことしますね〜。密室に、恋の病で倒れるヒトを入れとくなんて」


「あぁ…。それは………うん。今は溺れたりするリスクは無いし。それに、一体化は人前でしか発動しないらしいよ」


「あ、ソーナノ?紅葉が引っ付きたがりって訳じゃないんだ」


「みたいだね。あくまで、対外的なパフォーマンスなんだとか」


「へぇ…。夏目さんって、今年の春からの付き合いなんです?春陽さんとは」


「ああ、そうだけど」


「良くもまぁ、ここまで献身的になれますよねぇ。自分なら匙投げますよ」


「あ、そう?かな…別に、献身とかそんな気は無かった。でも困ってたら解決してあげたいじゃん」


「へぇー。それだけ?」


 ずっと、口元に違う色の毛がついてるの、気づいて無いな?この色、春陽のものだ。これ、二人、なんかしたよな。冬野囲炉裏は、そう思いはしたが直接言うのは後回しにして続ける。


「自分と違って、本当にハキハキ喋るヒトですね。表情も豊かだ」


「褒め言葉として受け取っておく。うれしいね」


「ふーん……へぇ」


「え、何ですか?」


「何でもない。キミたち、皆似てるね」


「え?」


「これ今、オートだよね」


 扉のある壁面に、風量調節なんかができるパネルが付いている。


「風量上げるね」


「えっちょっ、ぐあっ!!!」


 夏目が立っている側の壁から強風が出て、彼の口元に付いている黒い毛を吹き飛ばす。


「…ああ〜。ちょい強すぎかな。やっぱオートに戻すね」


「ちょっと!急に何を」


「自分、普段強風設定にしてるんで」


「ふぅ……。君はホントに読めないヒトだね」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


 さり気なく、囲炉裏は地面に目を遣る。自分の毛が、黒い部分が多いのが幸いした。さっき吹き飛ばした黒い毛は、いい感じに自分の抜け羽に紛れていて、気付かれていなさそう。


「そろそろ冷風で仕上げるくらいのタイミングかな。雑談しようよ。好きな食べ物とか、趣味とか、アーティストとか、教えて」


「全く、話の方向が予測できないね。でもいいよ。ちょうど君のことも知りたいと思ってたから。改めて、俺の名前は夜間夏目。好きな食べ物はササミとブロッコリー。趣味は体力作り。あと料理。アーティスト……かどうかは分かんないけど、最近推してるのはムーンライトぴょんぱーズの宇佐美ちゃん」


「ほう!宇佐美ちゃん推しとは、話が合いそうですな。御仁」


「うわ、羽根の隙間からアクリルスタンドが…ってそれどういう仕組み!!?ちょっとキモい!!っておお、このアクリルスタンドは1周年ライブ100個限定配布の激レアアクスタ!!持っているつわものが、よもや存在するとは…!」


「そうさ。小さな頃から、彼女たちは近所でライブをしていたから。まさかここまで大きくなるとは思わなんだ…っと失礼。君にばかりプロフィールを語らせるわけには行かないね。自分の名前は雪野囲炉裏。好きな食べ物は、サバの味噌煮と豆腐の味噌汁。それと、ほうれん草のおひたしだ。趣味はボドゲと楽器演奏。君と同じくぴょんぱーズのファンだ。因みに、このアクリルスタンドを保護しているビニールは耐衝撃性、耐冷耐熱、耐紫外線を高水準に備え、あらゆる事象からこの子を守る」


「……大切にしてるのかしてないのかよくわからんラインだが……デカめの愛が伝わるな。好きな曲は?」


「メジャーどころではあるけど、やっぱ一番好きなのは月まで届け!ぴょんぱーズラブ♡かな」


「おお!やっぱり?どの曲も良いけど、やっぱりアレに戻ってくんだよな〜。」


「「きっとどこまでも届く♪愛っていうのはそういうもんでしょ〜♪」」


 共通の趣味により、ノリノリになる二人。防音仕様でなければこの恥ずかしい場面が左右の部屋に漏れていただろうが…そんなこともなくもう一方の、幼馴染部屋。


「…………ねえ紅葉。ちょっと肩貸して」


「んぇ?」


 ガバッ。


 体格差のある紅葉に飛びつき、首筋に抱きつく。


「………え?」


 ショリショリと、肩筋をなめる。


「んふふ。親愛の証だよ、紅葉。今までやったことなかったけど」


「おおー。そう言えば、やってくれたことなかったね。他の種族の友達は、よくやってくる奴もいたっけ」


「ふぅん。そうなんだ」


「あっ、じゃあもっとやる。やっぱり大事なものにはツバをつけておかないとね」


「物理的にってこと?削れないくらいにしといて欲しいかな〜」


 強めの熱風が徐々に徐々に弱まり、仕上げの低温風にシフトしていく。


「すごいね〜。ふわふわだ。根元まで乾いてる…」


「誰かさんが濡らしに来てるけど」


「うわ〜そりゃ…ひろいね(酷いね)…」


「こら、舐めるか喋るかどっちかにしなさい」


「おはあはんはは(お母さんかな)?」


「因みにいつまで続けるの」


「……………ふー。終わるまで…かな。ん……」


 心臓に手を当てる。


 トットットッ……。


「やっぱやめた。」


「なんだよ〜」


 両者、終わるまであと1分。


「あれ。アイツなんかしたのか?心拍数が」


「上がってんの?」


「ああ。結構、ギリギリかも」









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