THE幼女テイマー ~何故僕はかの不名誉なスキルを一年間この身に宿す決心をしたのか~
川獺右端
第1話 春分の日の夜は天使がスキルを届けに来る
二年前に死んだ妹が天使になって春分の夢にやってきた。
「さあリュートさん、春分おめでとうございます、スキルを届けにきましたよ」
「え、あ、いや、メリー……?」
「は? いや私はメロディといいます、この春から天使になったばかりの駆け出し天使ですけど、頑張りますのでっ」
なんというか、どう見ても死んだ妹のメリーだった。
見ていて悲しくなってくる。
あの子は疫病に掛かって、家族に移すまいと自分で隔離小屋に入っていって孤独に死んだ。
いつでも人の事ばかり考えて、自分は我慢する質の奴だったからなあ。
たしかに魂の綺麗さで天使に生まれ変わってもおかしく無いよ。
メリー、いやメロディを見ているとどんどん涙があふれて止まらない。
「え、え? どうして泣いてるんですか、どこか痛いんですかリュートさん、大丈夫ですか」
「あ、いやいや、違うよメロディさん、な、何でも無いんだよ」
僕はあふれる涙を拭った。
そうかあ、天使になれたか、それは良かったなあ。
メリー、本当に良かったなあ。
「と、とりあえず、リュートさんの半生をかんがみスキル【グリフォンテイム】を持って来ましたよ」
メロディは卵の一杯入ったバスケットから、一個の卵を出して見せてくれた。
と言っても僕には何のスキルの卵か解らないんだけさ。
「おお、それは凄い、うちの牧場もそろそろ空畜を繁殖させたい所だったんだよ」
「えへへ、良かったですねえ」
メリー、いやメロディはこちらに駈け寄ろうとして、何も無いところでつまずいて盛大にひっくり返った。
あーあー、天使になってもドジなのは変わらないなあ。
懐かしいなあ。
「あああああっ、あああああっ」
「どうしたの、メロディさん」
「スキルの卵が、スキルの卵がっ!!」
ひっくり返ったバスケットから卵が床に落ちて二つの卵が壊れていた。
だ、大丈夫なのかスキルの卵が割れて。
メロディは慌てて二つに分かれた卵を繋げた。
「ああ、良かったくっついた……、ああああっ!!」
「ど、どうしたのメロディさんっ」
「ちがうちがつ、これとこれ、ちがう、わー、くっついて離れないーっ!! わあああっ、スキルが駄目になったあああっ!!」
メロディはギャン泣きを始めた。
ああ、もう、昔からこうやってドジをして、失敗をしてワンワン泣いてたよなあ。
スキルの卵を間違えて繋げてしまったらしい。
「スキルはどうなったの、壊れて使えないの?」
「わ、わかんないですっ、ええと【グリフォン×育成】です、ううっ」
「ああ、テイムは出来ないけど、育成なら良いじゃ無いか、僕はそれでも良いよ、メロディさん」
「ええ、大丈夫ですか? 本当に良いんですかっ」
「牧場だからテイムよりも育成の方が良いかもしれないよ」
「わああ、ありがとうありがとうーっ!」
まったく、メリーは死んでも心配を掛けるなあ。
でも、なんだか懐かしいや。
「ぎゃーっ!!」
「どうしたのっ!」
「もう一個のスキルが、スキルが【幼女×テイム】になってしまったああっ!!」
「それは酷い」
なんというか、犯罪的なスキルになったなあ。
本来は【幼女育成】だったのか、保母さんみたいなスキルだったんだなあ。
それがテイムだとなあ。
聞こえが悪いよなあ。
「もう駄目です、消滅させられちゃう、もう天使をやめさせられてしまう~~!!」
メロディは泣き叫んだ。
ああ、天使を失敗すると消滅させられてしまうのか。
それも可哀想だなあ。
「ええと、この元のスキルって、村のカナタちゃんにあげるやつかい?」
「え、ああ、そういう事はですね、あまり言えないのですよ」
メロディの目が泳いだ。
うん、カナタちゃん用のスキルっぽい。
メリーの嘘を吐くときの癖だよな。
カナタちゃんは村の子守所でアルバイトしてるからね。
「解った、カナタちゃんの家は馬牧場だから【グリフォン育成】も使えるでしょう。僕が【幼女テイム】を貰うよ」
「え、ええええっ、でもリュートさん、こんなスキルを持ったら犯罪者扱いされて馬鹿にされてしまいますよっ」
「いや、まあ、使わないから、来年【グリフォンテイム】に交換してよ、カナタちゃんにも【幼女育成】を持って来て、一年の事だから、みっともないけど我慢するよ」
この十五の春分の夜に貰えるスキルはこれまでの半生が反映されてスキルが作られると言われている。
僕に【グリフォンテイム】が下賜されるはずだったのは、一生懸命羊飼いをしていて、空を行くグリフォンを見て憧れを持ったからだろう。
お父さんなんかは羊飼いなのに【陶芸】のスキルを貰った。
牧場経営の傍ら、窯を作ってお父さんは陶芸でも商売をしてるんだよ。
お母さんは手芸が好きだったから、そのまま【手芸】だった。
「リュートさあああん、リュートさあああん」
メロディは僕に抱きついてワンワン泣いた。
なんだか懐かしい暖かさでちょっと胸が痛んだ。
良いんだよ、メリー、生きていた間は僕はあまりお兄ちゃんらしい事をして上げられなかったからね。
僕はちょっと満足して、メロディの背中を撫でた。
うんうん。
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