第16話 毒見は俺に任せろ

 ガウガメラと巨大サイを解体して一ノ谷まで運び、地下室に保管する。ここまで済ませると辺りはすっかり暗くなっていた。

 エルナンの図形魔法がなかったら半日じゃあ終わらなかったな、開拓民の中で図形魔法が使える者がいるか募ってみよう。エルナンほど図形魔法に精通していないにしろ、ライトの魔法を使うことができるだけでも重宝する。何しろモノがないから、各自が持ち込んだ道具が全てだからなあ。

 鍛冶場やら紡績所とか食べ物以外の様々な日用品の作成も準備していなきゃならん。残念ながら俺たち三人にはその辺りの知識がないので、事前に鍛冶用の炉を作ったり、工房を作ったりなんてことはできないんだよな。とはいえ、建物を作るだけなら1時間程度で建築可能である。職人が来てくれることを祈るしかない状況だ。さすがに第一陣の開拓民の中で職人がゼロってことはないよな? もしゼロなら王国に物申して派遣してもらわなきゃならない。

「ふう、これでしばらくは肉には困らないよな」

 地下室の前で手をパンパンとさせ、ふうと息をつく。

「アリサのところへ行こうか」

 エルナンと肩を叩き合い、先に戻って食事の準備をしてくれているアリサの元へ向かう。

 

 ◇◇◇

 

 煮炊き場に近づくと既にいい香りが漂ってきていた。

「んー、この香り、たまらんな」

「はは、毎日食事ができること、中々できることじゃない。ありがたくいただこう」

「だなー。三人揃ってなきゃ、無理だったよ」

 などと笑い合っていたら、こちらに気が付いたアリサが手と尻尾を振り振りし俺たちの名を呼ぶ。

「クリス様! エルナン様ー!」

『きゅいきゅい』

 彼女から遅れてハリネズミもすっと立ち上がり、すんすん鼻を揺らしながらのっしのっしとこちらに歩いてくる。

 ハリネズミが座っているところへ行くつもりなのだが、まあいいや。

「食べずに『待て』をしてくれていたんだな」

 ハリネズミの首元を撫で、彼と共に焚き火の傍へ座る。

「クリス様、ハリネズミさんはお肉を食べないみたいです」

「そうだったのか。山菜も食べなさそう?」

「はいー。明日、三日月湖でハリネズミさんが食べられるものを探したいです」

「三日月湖は怖いだろうに。ありがとうな、アリサ」

「い、いえ……」

 首元まで真っ赤になって首をぶんぶんするアリサ。

 ハリネズミは肉も草も食べないとなると、果物とかキノコとか、その辺かなあ。彼の口のつくりを見るに少なくとも肉食ではなさそうだ。

 草を食べないとなると果物食が有力じゃないかと思う。

「お腹空いてるよな、明日三日月湖まで行こう」

『きゅいきゅい』

 肉を食べないと聞いて開拓民に襲い掛かる危険性が極めて低くなったと安心する一方、渓谷だとハリネズミの食べるものが自生していないため、こいつを飼うには食べ物をストックしておかなきゃならないと認識できた。

 アリサがいてくれて大助かりだよ。

 

 翌朝さっそく三日月湖へ向かう。

 ブロック貨車にハリネズミを乗せるとぎゅうぎゅうになってしまうな。針部分は思ったほど固くなく、マッサージによいかもしれないなんてどうでもいいことを考えている間に三日月湖へ到着した。

「エルナン、ブロック貨車をつなげて運ぶのもありかな?」

「一度運行の実験をしてみればいいんじゃない? 一台を長くするよりは扱いやすいと思うよ」

 二台のブロック貨車を連結させるとその分揺れが大きくなりそうだ。一台を長くし過ぎると高低差や路線が斜めになっていたりすると詰まるかもしれないからさ。大陸縦断路線については曲がり角がないので多少無理はきくが、今後の拡大を見越して規格化しておきたいところ。規格化しておけばいちいち微調整必要もなくなるから大幅に手間が省ける。

 なんてエルナンと会話しながらブロック貨車を下りたら、ハリネズミがこっちを向いてはやくはやくと短い尻尾を振っていた。

 彼に続くアリサの尻尾も揺れていて笑いそうになったことは秘密である。

「アリサ、俺が先に外に出るよ」

「あ……お願いしますっ!」

 昨日の三日月湖の惨状を思い出したのか、青ざめたアリサはさささっと俺とエルナンの後ろに回り込む。

 そんな中、待ちきれなくなったハリネズミが先にスロープを登り地上へ出てしまっていた。

 ハリネズミなら、元々三日月湖で暮らしていたから心配ないだろ。昨日だってなんのかんのでサイから逃げ切れそうだったもの。

 

 外に出たハリネズミは森の方へ向かうのかと思いきや、湖にドボーンと潜る。

「ちょ、大丈夫なの?」

『きゅいきゅい』

 湖から顔を出して元気よく鳴くハリネズミであった。

 湖の中に果物なんて生えてないだろうに。

 ……なんて思っていたことが俺にもありました。

 

 しばらく様子を見ていると、枝を咥えたハリネズミが岸に戻ってきた。

 ハリネズミのサイズが大きいだけに枝もなかなかの大きさで、二メートルくらいある。

 枝にはブドウのような粒々が沢山ついていて、岸からでてブルブルし水しぶきを飛ばしたハリネズミがさっそくもしゃもしゃし始めた。

「一個もらってもいい?」

 返事をきかずブドウを一粒、枝からもぎ取る。

 ふうむ。大粒のマスカットよりも少し大きい。ブドウならかなりの大粒になる。もっとも、ブドウは水中じゃあ育たないからブドウではないだろうけど。

「食べて大丈夫なんですか……?」

 アリアが不安気に見つめてくるも、問題ないと肩を竦め、目線をエルナンに送る。

「解毒魔法は準備しているよ。食べられるものかどうか率先して確かめてくれるのはありがたい。とても王子だとは思えないね、君は」

「はは、毒見は俺に任せろ」

 単に食い意地が張っているだけとかの突っ込みは受け付けないぞ。

「もぐ……お、こいつはうめえ。ここにきてから一番おいしいかも」

 味わいはシャインマスカットのそれとほぼ同じだった。転生して以来、シャインマスカットを食べたことはなかったが、懐かしくも上品な味に感激する。

 後は毒性がないかどうかだが、一粒食べたら毒があろうが同じだろ。もう一粒食べることにしよう。喉も乾いているし! みずみずしいからね、シャインマスカットは。俺の中でこの粒々はシャインマスカットと命名された。異論は認める。

「問題なさそうだよ。あとでお腹を下したら、エルナンに頼むよ」

「任されてた」

「そんじゃあ、要塞作りをしますか」

「要塞ってまた大きく出たね」

 城壁でもいいんだけど、要塞の方が呼び方がかっこいいじゃないか。いやまあ、作業としてはモンスターから防衛するための壁を作るんだけれども。

 

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