第13話 三日月湖の秘密ってほどでもないが

 ハテナマークが浮かんでいる俺にエルナンが呆れたように口を挟んでくる。

「三日月湖を含む一帯のこと、君は知らないようだね。ただの便利な食力補給地と思ってないかい?」

「生物相が豊富な地域だよな」

「そんな生物相が多様で、豊かな大地に何故王国が目を付けないのはどうしてなんだ、って疑問を抱かないかい?」

「うーん、あれだよあれ、険しい地形だからだよ、三日月湖付近はともかく山脈と森がまさに秘境って」

 肩をポンと叩かれ、首を左右に振られてしまった。

 俺か、俺がおかしいのか、とあえぐようにアリサへ視線を送るが、彼女は両手を前にやって首と共に左右に振るではないか。

 分かったよ、ちゃんと考えろってことだろ。

 三日月湖は山間部にある。山間部とざっくり書いたが、深い森に高低差の激しい地形と探検家にとっては楽しい一帯だろうなと思う。

 一ノ谷の渓谷付近もなかなか激しい地形であるが、木々もぬかるみもない分、三日月湖一帯に比べればまだ探検しやすい。

 あくまで地形を比べた場合なんだけどね。実際のところ、踏破するのに一週間かかるとした場合、圧倒的に厳しいのは一ノ谷の渓谷に決まっている。

 何しろ食べ物がないからな。砂漠地帯は。

 一方で三日月湖一帯は、植物相が豊富で……いかん、これじゃあ、さっきと同じ結論になるじゃないか。三日月湖一帯は天国だって。

 そうじゃないんだよな。

 どうも俺の感覚がズレていることは確かなのだろうけど、何だろう。そもそも三日月湖一帯の知識がまるでないからじゃあかなろうか。

 王国は砂漠地帯にも植民を行おうとする蛮勇を持った国だ。そんな王国が三日月湖一帯ではなく、砂漠地帯を指定したの何故か、ってところから紐解いたら答えが分かるかもしれん。

 砂漠地帯はよくわからんから、ここまで過酷な場所だと知らなかったのだろう、きっと。そんじゃあ、三日月湖一帯はどうか。

 険しい地形なら水源が豊富な三日月湖まで繋がる道を開拓すりゃ何とかなる。なので険しい地形が原因ではない。

 砂漠地帯に比べて狭い範囲だから開拓のうまみがない? いやいやそんなことはない。最適解が何人か詳細に調査しないと分からないけど、おそらくちょうどいい人数は1000人程度になるんじゃないだろうか。1000人で街を作って策源地とすれば、それなりに資源供給地になりそうなんだけどなあ。

 しかし、今回、砂漠地帯の開拓話は出たが、三日月湖一帯については触れられもしなかった。ということは、三日月湖一帯には居住に適さないことを王国は身を持って知っているってことさ。

「はあはあ……考えすぎて疲れてきた」

 水を補給し、再び思考の海へ飛び込む。

 危険って知っていたってことは……その時、脳裏に電撃が走る。

「分かった! 災害だ! 災害が多発するから王国も手を引いたんだろ」

「長考した結果がそれとは君の認知はなかなかにエキセントリックだね」

「ええ……結構しっかり考えたんだけどなあ」

「災害と言えば災害だから間違ってはいないよ。三日月湖ある地域のことを何て呼んでいるか知っているかい?」

 ぶんぶんと首を横に振る俺。

 対するエルナンはなるほど、と一人納得した様子である。

「魔境と呼ばれているんだよ。魔境内には魔の森、魔の山、などなどそれぞれ名前がついていたりするんだよ」

「えええ、あのあたり、怖いモンスターがいるってことかあ」

「そういうこと。だから、アリサは城壁と言っていたんだよ」

「それなら俺にいいアイデアがある! 疫病とか呪いじゃどうしようもなかったけど、待ち構える前提のモンスターならいけるいける」

 といっても、俺とエルナンがセットでいる時に限るけどね。

 

 ◇◇◇

 

 そんなわけでさっそく三日月湖にやって参りました。同行メンバーはいつものエルナンとアリサの二人でごぜえます。

 三日月湖は平和そのもの、天気も良いしのんびり釣りをするのによさそうだ。

 俺たちのいる場所がたまたま平穏で、三日月湖の向こう岸とか、裏手にある木々の向こうとかは危険度が高いのかもしれない。

 大型モンスターからしたらここと裏手の木々の辺りなんて目と鼻の先だ。すなわち、ここにいつモンスターが襲来してもおかしくはないんだよな。

 本当にこの地域が魔境と呼ばれるほどのモンスター危険地帯ならば、だけど。

「塔、というか見張り台を作るよ」

「ふうん、そいつは面白そうだ」

「あ、あの、お二人ともわたしから離れないでくださいい」

 ぴいいと俺の服のすそを引っ張るアリサであった。

 さあて、まずはマーモに出て来てもらってっと。ブロックは地下を掘り進めた時のものが大量に積みあがっているから新らしく作成する必要はなし。

 マーモにお願いして二等辺三角形のように階段状へブロックを積み上げて行く。

 階段を登った先を少し広くして完成だ。高さはおそよ10メートルといったところ。高台の上に登ると遠くまでよく見えるぜ。モンスターの発見にも良し、しかし、索敵はおまけだ。

 この階段状の建造物……意図は違うが見張り台と呼ぶことにしようか。見張り台の上に俺とエルナンがいれば、防衛に支障はない。

「うーん、移動は制限されるけど、俺とエルナンがいないときに避難できる場所は必要だなあ」

「ぐるりと囲まないまでも、壁も建築することを薦めるよ」

 言わんとすることはもっともだ。モンスターや猛獣から身を護る手段ってのはあればあるほどいい。

 一ノ谷の方ばかり考えていたからなあ。あっちはまるでモンスターの気配がないからさ。

 腕を組みまた考え込みそうになった時、俺の背筋に悪寒が走る。こいつは何か来やがったな。

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