第11話 一ノ谷・三日月湖間
農業が軌道に乗るまで三日月湖だよりになるよな。軌道に乗った後も畜産が大発展しない限りは大なり小なり三日月湖から資源を持ってくる必要がある。
根幹となる物流を支えるのが、さきほど完成した三日月湖・渓谷間の地下トンネルなのだ。
地下トンネルは単に歩くだけでも地上を進むより遥かに快適になっている。舗装されたアスファルトの道が直線で続くことをイメージしてもらいたい。
ブロックで掘り進めた地下トンネルは車や自転車でも引っかかりなしに進むことができるのだ。そう、高速道路のようにね。
「完成したトンネルに名前はつけないのかい? 他にもトンネルを作った時のために名前があった方がいいんじゃないかな」
「だな」
完成した現場で座り込んでいた俺へアリサが水をもってきてくれた。水を飲んでいたらエルナンが隣に座ってトンネルの名称の提案をしてきた形だ。
「んー、場所についても名前をつけておいた方がいいか」
三日月湖周辺については、三日月湖でいいだろ。駅名も三日月湖駅でいいや。お次は渓谷。
ごくんと水を飲むも、浮かばない。
「アリサ、渓谷の川の名前、何か浮かばない?」
「え、えええ……」
突然無茶振りされて冷や汗たらたらのアリサは耳も尻尾もしなってなっていた。
当然な反応である。正直すまなかった。
謝罪しようと口を開きかけた時、アリサが先んじる。
「あ、あう、あ、レ・サヴォイアはいかがでしょうか」
「王家の名前……」
「川は渓谷の川、場所は一ノ谷とかはどうだい? 今後増えたら数字を足せばいい」
「それでいこう」
見かねたエルナンが俺たちに助け船を出してくれた。今後例えば、渓谷の北側、南側に居住地を作った場合に一ノ谷、二ノ谷と順番に名づけができるからな。
しかし、渓谷の川はないだろう。もうちょっとこう、なんとかならんか。
「川の名前は今後要検討にしよう……。トンネルを繋いだ先の渓谷一体地域を一ノ谷にする」
駅名も一ノ谷駅でいいや。
こんかい開通したトンネル……もとい路線は一ノ谷・三日月湖間となる。これは大陸縦断路線とでもするか。
大陸縦断路線は豊富な資源がある三日月湖と砂漠地帯の中心地となる予定の一ノ谷を繋ぐ暮らしの大動脈(予定)である。
「そんじゃあ、試作型のブロック貨車をいくつか作るか」
レールの幅は決まっているので、一番安定する貨車の幅を模索したい。貨車を動かすことは、自転車や電車の運転と大きく異なる。
ブロック貨車にはそもそも運転という概念自体がない。マーモがふてぶてしく仁王立ちして、モ、モ、言ってたら動く。
速度の調節も方向もマーモにお願いすれば終わり。
非常に舐め切った動かし方であるが、最大スペックは恐ろしいぞ。
ブロックを排出すると時に色々試したんだよね。目測であるが、最大速度は弾丸並。つまり、目で追えないほどになる。
ただ、ソニックブームが発生しないことから音速には至っていないと思う。
◇◇◇
「んー、この幅が一番安定するな」
「ブロックレールと同じ幅がいいのかもね」
二人並んで腕を組み、動く貨車を眺める。
ブロック貨車の車幅は2メートル。これで行こう。今後ブロックレールの幅を改定したら、それに合わせてブロック貨車の幅も調整する。
電車の車幅はたしか3メートルくらいだったと思うので、電車に比べたら幾分車幅は狭くなるけど、車に比べたら少しだけ車幅が広い。
全長は10メートルくらいが無難となり、これは電車の半分くらいのサイズになる。
長すぎると折れ曲がったブロックレールが進めなくなってしまうからな。ほぼ直線だけど、何分手動なもので若干曲がっているのではないかと思う。
「向こう側の一ノ谷駅までブロック貨車を吹っ飛ばしてみようか」
「バラバラになってもいいなら、いいんじゃない? 耐久性やこのサイズで最後まで進むことができるかの実験になるし」
などとエルナンと会話し、ブロック貨車を全速で一ノ谷駅まで動かしてみることにした。
俺たちは今、三日月湖駅にいる。なので、三日月湖駅の向こう側となれば一ノ谷駅になるのだ。
別にブロック貨車を最高速度でぶっぱなす必要はないのだけど、耐久と安全性を見るには一番いいかなって。最高速度でどこにもぶつからずにブロック貨車が進むことができるのなら、全長10メートルのブロック貨車で問題ないとなるわけだからね。
「マーモ、頼む」
『箱を開けるモ』
「あ、待って。マーモは俺の足元にいても、動かすことができるかな?」
『問題ないモ』
ありがとう、そんなわけで開錠と唱え、魔力を注ぎ込む。
その前にマーモにはブロック貨車から足元に移動してもらった。マーモがこの場からいなくなると、呼び戻すのにまた魔力を使うからさ。
離れたマーモをどうやって呼び戻すのかって? 特に難しいことじゃあないんだ。
マーモは魔力の供給を停止すると、元の世界に帰ってしまう。元の世界って表現が正しいのかは分からないけど、この場からは消える。
そんで消えた後に呼び出せば、俺の足元に出現するって寸法だ。
マーモが消えた後、マーモにとってこの世界の場所や空間といったところから切り離される。なので、消えた場所からどれだけ距離が離れていても問題ないってわけさ。俺が何も特別ってわけじゃなくて、そもそも精霊を呼び出す魔法は、精霊をそのまま維持するんじゃなくて、魔法を使うたびに毎回召喚する。
同じ場所で精霊魔法を使うことの方が稀だし、前回魔法を使った場所と異なる場所にいるからといって精霊が出現しなくなることはない。
精霊を出しっぱなしにしているから違和感を覚えるって感じだな、うん。
「んじゃ、マーモ、頼む」
『モ』
目前にあるブロック貨車が風切る音だけを残し、一瞬にして見えなくなった。
「あー、この速度のブロック貨車にもし乗っていたら首が折れそうだわ」
「事前に風の膜……ウィンドスクリーンを張っていれば多分大丈夫だよ」
「おお、図形魔法を併用するってことかあ」
「その通りだよ」
弾丸のようなスピードまで一瞬で加速するとなれば、体にかかる重力加速度(G)は相当なものになる。
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