第二十射 再会と試合と既視感と

「えっと、つまりこのちっこいのが………?」




「『七色』が一角、死の弾丸デス・ブレット………ミル・ラガン・ドラグノフだと言うんですの?」




何とか平静を取り戻した鏡花の説明を受け、恐々としながら教室内の皆が目の前の少女へと視線を向ける。




「ん、バレちゃった」




春風に吹かれ、銀の長髪をたなびかせながら、少女は言った。




「ふーん、魔眼使い、ね」




しかし、こちらの事もバレているようだ。




突然の七色の来訪、そして先程のつぶやきから彼女の視線に多少の敵意が混じっていることも相まって、この場の緊張はMAXに…………




「あっ!」




ならなかった。




少女が廊下に顔を向けた瞬間、彼女の目には喜び以外の感情は全く確認できなかった。さっきまでの無表情はどこへやら、年相応の子供のような可愛らしい笑顔を向けて外に駆けていった。




「ちょ……し、師匠ぉ!?!?」




廊下から響いたのは、聞き馴染みのある彼の声だった。




「師匠…………?」




「そういえばそんなような事も言ってましたわね…………」




「あの時は最強の言葉だったから信じたが……まさか本当だとは思わねぇじゃん…………」




口々に驚きの言葉を発しながら、廊下の外を見るため、教室内の全生徒が競うようにしてドアへと殺到する。




「ちょ、重………うわぁぁぁぁ!!!」




あまりの荷重に耐えきれず、先頭から逆ドミノ倒しのように全員が廊下に飛び出した。




「えへ、えへへ…………久しぶり、だね」




最終的に私達の目に映ったのは、七色の威厳やさっきまでのオーラなどどっかに置いてきたかのように先生に甘える少女の姿だった。







「とりあえず、説明してもらいましょうか?」




「僕もそう言おうと思ってた所だけど…………まぁ理由は明白じゃないかい?」




そりゃそうなのだが、せめて建前くらい聞いてあげるべきだと思うのだが…………




「寂し……じゃなくて。最近、ココで事件があったでしょ。それに連絡も取れなくなったから、心配してきたの」




一瞬本音が出かけたが、何とか軌道修正したようだ。




「連絡が取れないって…………なぜだい?返事くらいしてあげればよかったのに」




どうやら彼女を引き離すつもりが逆効果だったようだ。




「ちょっと頻繁に電話もメールもしすぎてまして……そろそろお互いに師匠離れ弟子離れすべきかなぁと思って…………」




「だからって、無視は酷い。傷付く」




「そうだそうだー、やーい女泣かせー!」




この人が人類最強じゃなければ引っぱたいているところだ。




まぁ二人が正しいのは明白だ。俺も雑な手段を取ってしまったことは否めないし、返す言葉もないとはこの事か。




「それで、ここまで来てどうする気何ですか?かなりの大荷物みたいですけど」




「ん」




と、俺を指さす。




「え?」




「私の家は貸した。今更出てってなんて言えない。だから…………泊めて。ずっと」




「ですってヘイムダルさん」




「うん、仕事に支障が出ない程度にイチャコラしてくれたまえ」




「違いますよ!あんたの家だってことにすり替えたかったのになんで気付かないかなぁ!?」




俺の意図など気にする物かと完全にスルーされキレる俺を見て、不意に師匠が俺の服をちょいちょいと引っ張る。




「一緒は………嫌なの?」




その深紅の瞳には涙が溜まり、上目遣いで、肩を震わせながら、俺に問いかける。




あぁもう!断れるかこんなもん!




「分かりました、分かりましたから!何日でも泊まっていってくださいよ!!」




「…………同棲?」




「違うわ!」




まだ瞳に涙を溜めたまま、嬉しそうに問いかけてくる師匠にツッコミを決める。本場関西でもこうキレの良いツッコミは多くは見られないだろう。




だからなんだと言った感じだが、ヘイムダルによると、元々ヴェルメイユ祭の企画のため招集をかける予定だったらしいので、来るのが少し早まっただけだった。




結局一月前の生活が戻ってくるようなものなので、今回が同棲なら以前までの生活は何だったんだという話になるが、そんなことはどうでもよくて、それ以上に彼女に対する対応に関して酷く悩んでいた。




俺はラノベ主人公によくある鈍感タイプではない。人の好意くらいには気付けるつもりだ。今の彼女は、俺に依存しすぎている。精神的にも、肉体的にも。初めて会った時にはこんな姿は一切見せなかった。俺が、変えてしまったのだ。




言ってて少し自意識過剰な気もしてくるが、多分誰が見ても俺のせいだと言うだろう。俺はそれに、酷く責任を感じている。一人で生きてきた彼女が誰かを知ることは必要だった。しかし、それが俺でなければならない必要はなく、それ以前に俺以外ともっとたくさんの人を知る必要があったはずだ。俺が奪った機会の中には、彼女を救う物もあっただろうに。




とまぁこんな理由で、俺は彼女との今後の付き合い方について苦悩しているのだった。




「えへ……同棲だ。やったぁ」




その小さい身長で俺の胸(と言ってもほぼ腹)に抱きつき、嬉しそうにつぶやく師匠を見て、俺は小さくため息を漏らすのだった。







授業が終わり、多くの生徒は帰宅するか部活に励むかしている中、職員室では大混乱が巻き起こっていた。




「おいおい狙撃の姉ちゃん、ちょいと落ち着いて………………」




「離れて宥めるんじゃなくて抑えるのに協力してくれませんかねえ!?あなた一番力あるでしょうが!!」




双葉が必死に抑える……………というよりギリギリ重りとして機能しているレベルの拘束を敢行する中、エリオが説得を行っていた。




「いや、俺が手出したらケガじゃ済まねえ可能性が………………」




「うおおおおおお!!!!!あのクソちびは私が殺す!!!!!!どけえええええええ!!!!!!!!!」




「あぎゃああああ!!!!やめて、背骨が割れるぅ!!!」




「…………修羅場、だね」




まさに地獄を現したかのような光景を目の前に、それ以外の言葉が出なかった。




「おお最強、いいところに来た!あいつを何とかしてくれ!」




既にいけない方向に曲がりだしている双葉の背骨を見事にスルー出来るエリオのスルースキルは見習うべきかどうか疑わしいところではあるが、今は彼女を何とかするのが先だ。




「零くん、落ち着きたまえ。君の気持ちは痛いほどよく分かるが、その気持ちは今爆発させるべきじゃない」




「ちょ、なに!?こいつがうるさくて聞こえないわよ!」




「ああああああああああああ!!!!僕の背骨あああああああ!!!!!!!!」




………………B級ホラーでも見ている気分になってきた。




「エリオくん、彼を医務室へ連れて行ってくれるかい?」




「お、おお。分かった」




エリオがもふもふの毛を震わせながら双葉を連れて外へ出たのを確認し、騒動の中心だった女性に目を向ける。




「………………なによ。私を止めるって言うなら、たとえあんただろうと容赦しないわよ!」




いつものクールで知的な雰囲気はどこへやら、まるで子供の用に床に座り込んで僕を見上げる姿を写真に収めてからかうネタにしようとする僕の中の悪魔を押さえつけ、彼女の手を取って立ち上がらせる。




「先ほども告げたが……………君が本気を出すべきは今じゃない。実は、今年行われるヴェルメイユ祭で、こんなことを計画してるんだ」




今朝彼に見せた資料からさらに進んだ段階の資料を彼女に手渡す。




「なるほどね…………つまり、私にこれに出て見世物になれってわけ?」




「いやいや、見世物だなどとは思っていないよ。ただ、君が適役なだけさ」




僕が考える中でもあのミルに対抗しうるのは彼か目の前の女性くらいだ。もちろん僕を除けば、だが。




「ふーん、まあ観衆の中であいつを負かせるってのもいいわね…………その話、乗ってやろうじゃない!」




自信たっぷりに資料を突き返し、不敵に笑って見せる零。




どうやら予想以上の試合になりそうだな……………




「ふふふ…………待ってなさいクソちび!あんたのヒモとその他大勢の前で赤っ恥かかせてやるわ!」




零の高笑いが校舎中に響く。遠く先でこの声を聞いた者が「まるで悪魔の笑い声のようだった」と証言したことでヴェルメイユ・ファミリア七不思議に八不思議が追加されたことは、また別のお話………………

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