空を掴みし慶知
ナイリル リーン テイル
第1話
封蝋の割られた開封済みの手紙を持ちながら、アリステイル・リリエンタールは窓の外を見ながら思い悩んでいた。場所はガレオン船の客室。手を口元におき、現状のこと、そしてこれから起きるであろうことを考えているのだ。彼の胸にはもやがかかっているのだろうか。手紙の内容は招待状、そしてそれらに関する規則などが書き連ねられていた。
これから訪れる極東の島国。倭国だとか倭の地とか、呼ばれてたかな。島国でたしか帝政か王政か何か象徴のようなものがいて、そして軍事関係の者たちが支配しているとか先生が言ってたはずだ。
これから向かう地のことを思いながら、アリステイルは首をそのままに手元にある手紙に視線を移す。
慶知の杜。事前に少し意味を調べた。たしか慶はよろこびとか、めでたいことだっけ。そして知はたしかそのまま知識とかそういう学習とかの事だったはず。なにが喜びなんだろう。知によろこびなんかあるもんか。それは学んでいくうえで自分の知識の深さを知らない愚か者のことなんじゃないか。特に魔法学の事なんかそうだ。歴史や算術、錬金術とは違って行使できないと意味がない。それにどの学問でも上の者はいるんだ。いや、喜びはあるけど、そんなものに一喜一憂していては上にたどり着けないじゃないか。
アリステイルはそのようなどこか懐疑的な、あるいは彼の今の気質なのだろうか。ともかくどこか不機嫌を薄めたような負の感情を抱きながら言葉を咀嚼していく。
まあ、いいか。こんなこれから向かう場所の名前の意味なんて、考えてもきっと意味なんてないんだろう。そうないんだ。これから何を成していくかが大事だ。僕なんかにそれができるかわかんないけど。でもきっとやらないといけないんだ。
アリステイルはどこか接地感のない言葉の意味を探す思考を放り投げた。そして窓の方を向ていた首を客室に備え付けられている机に向ける。気分転換を終えて、紙面と向き合ってゆく。
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