第9話 月見の隠れた決意・二

 夏休み最終日にふらりと出歩く。一樹はようやく宿題から解放され、気晴らしのために風にあたろうとしていた。

 あいかわらず夕陽の熱が体中に刺さっている。うなだれて手で顔に影をつくり、太陽を見据えようとした、その時だった。


 西の山の頂上に、微かな雲が見えた。


 息が止まる。

 足を止める、空をじりじりと仰いでいく。

 あちらこちらに、灰色に濁った雲が薄く伸びているのが見えた。それらは一樹が立ち止まったほんの数秒の間にも、異常な速さで流れて西の山へと集まっていた。

 頬に、ひた、と雨粒が落ちた。


 もう遠く、思い出として飲みこみつつあった彼との時間が、一樹の胸を熱く締めつけて、喉にせり上がってくる。無意識に一歩踏み出していた。


「……月見……!」

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