番外編『今日のハーベストはにぎやかです』

「ケンジさん、見てください! 今年の新品種のジャガイモ、最高の出来ですよ! たっぷりバターを乗せて焼きましょうか?」

「おお、頼むぜ、リファ。ドルムのやつも腹を空かせてすぐ来るだろうし、いつもより多めに焼いておいてくれ」

「はい、お任せください!」


 ハーベスト共和国の発足から数年。かつての荒野は、見渡す限りの緑の楽園へと姿を変えていた。町には様々な種族の言葉が飛び交い、子供たちの笑い声が絶えることはない。


「おーい、ケンジ! 新しい手押し式耕運機の試作品ができたぞ! 神農具には敵わねえが、こいつはかなりの業物だ!」

「おう、ありがとうよ、ドルム。早速明日試させてもらうぜ」

「にゃー! ケンジ、ミィナも手伝うにゃ! その代わり、おやつは揚げたてのポテト、山盛りでよろしくにゃ!」

「ははは、わかったわかった」


 ミィナは相変わらず食欲旺盛で元気いっぱいだ。今では共和国護衛隊の総隊長として、多くの若者たちの憧れの的となっている。


「クゥーン!」(オイラも手伝う!)


 ポチはもう立派な成獣となり、その体躯は馬ほどもある。町の人々からは守護神として敬愛されているが……俺の前では今でも甘えん坊な相棒のままだ。


「よし、それじゃあ、今日も一日、がんばって耕しますか!」

「「「おーっ!」」」


 畑仕事を終え、みんなで焼きたてのジャガイモを頬張る。こんなにもシンプルで、こんなにも幸せな時間。


「ああ、そういえば、今日は収穫祭の本番だったな。町の中心じゃ、もう盛大にやってるぜ」

「本当に賑やかになりますよね。人間もエルフもドワーフも獣人も、みんなで一緒に踊って、食べて、歌うんですから」

「ふふ、去年はミィナさんが食べすぎて、ドルムさんにお腹をさすってもらってましたね」

「な、なんでそれを言うにゃー!? でも、あの蜂蜜がけのアップルパイは、本当に絶品だったにゃ……」


 みんなでわいわい言いながら、町の中心広場へと向かう。

 広場はまさにお祭り騒ぎだ。各種族の自慢の料理が所狭しと並び、子供たちが楽しそうに駆け回っている。広場の中心では、生命の樹を模した巨大なオブジェが、優しく光を放っていた。


「やっぱり、すごい光景だよな」

「はい、これが……私たちが守りたかった国です」


 リファが嬉しそうに呟く。

 その時、ポチが空を見上げて高らかに吠えた。


「クゥーオーン!」(高貴な方がいらっしゃった!)


 すると、天空から柔らかな光が降り注ぎ、中から慈愛に満ちた笑顔の女神ネイチャが現れた。


「見事にやり遂げましたね、ケンジ。そして、皆さん。この光景こそ、私が夢見た約束の楽園そのものです」


「女神様……」

「おめでとうございます。どうか、この平和が永遠に続きますように」


 女神は祝福の言葉を残すと、再び光の中に溶けるように消えていった。


「女神様までお祝いに来てくれたか。まあ、これもすべてケンジ、お前さんのおかげだな」

「そうにゃ! ケンジがいなかったら、ミィナは今頃お腹を空かせてたにゃ!」

「みんなのおかげだよ」


 俺がそう言いながら広場の賑わいを見渡していると、どこからともなく楽しげな音楽が流れ始めた。人々が手を取り合って踊りだし、陽気な笑い声がこだまする。

 ミィナが俺の手をぐいっと引っ張った。


「ケンジも踊るにゃ! さあ、こっちこっち!」

「お、おい!? 俺は踊りなんて苦手なんだってば!」


「何を言うか! この国の創始者が踊れんでどうする!」

 と、ドルムにまで後ろから背中を押される。


「さんざん世話になったんだ、たまには付き合え!」

「クゥン!」(踊ろう、主!)


 仕方なく、俺はみんなの輪の中に加わる。リファも少し恥ずかしそうにしながらも、楽しそうにステップを踏んでいた。

 うまくは踊れないけれど、なんだかとても温かくて、楽しい。

 これが、俺が築いた国。俺たちが守った、未来。

 女神様、見てますか?

 約束、ちゃんと果たしましたよ。

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