第30話 「シーソーゲーム」
【名城葉月高校:9点】 画面に表示された、満票という完璧な結果。
「「「うおおおおおお!!!!」」」 僕の後ろで、仲間たちの、地鳴りのような歓声が上がった。山田君に背中をバシバシと叩かれ、高橋さんからも「…やるじゃん」と、素直な賞賛の言葉をもらう。僕は、照れくさくて、顔が真っ赤になっていた。
一方、画面の向こうの愛工大附属。 彼らは、悔しがる様子もなく、リーダー格の男を中心に、静かに何かを話し合っている。 僕は、その光景に気づいていた。(彼らは、悔しがっていない…。ただ、僕の答えを『分析』している…?)不気味なほどの冷静さだった。
やがて、画面に、第二ラウンドのお題が表示される。
お題:『マラソン大会で、ビリの選手にだけ見える、謎の給水所。何がもらえる?』
先攻は、名城葉月。勢いに乗って、今度は高橋さんが手を挙げた。 彼女は、特訓で身につけた「相手の心に寄り添う」武器を使う。
「『おつかれー』と声をかけてくる、先にゴールしたはずの、未来の自分」
その、あまりにエモくて、少し不思議な答えに、葉月高校メンバーは「うわー、良い…」と感動し、投票する。 愛工大附属も、その独特の世界観に、数人が「面白い」と投票した。 結果は、
【名城葉月高校:6点】。
一本には届かないが、悪くない得点だ。
後攻、愛工大附属。 答えるのは、先ほどとは違う、小柄で、工具をいじっていそうな少年だった。 彼は、葉月高校の詩的な答えを、せせら笑うかのように、こう答えた。
お題:『マラソン大会で、ビリの選手にだけ見える、謎の給水所。何がもらえる?』
「次の給水所まで、あと5キロのショートカットになる、地下道の鍵」
その、あまりに実用的で、身も蓋もなく、そして最高に面白い「ズル」の提案。 葉月高校メンバーは、悔しいが、その発想の転換に「面白い!」と唸らされ、全員が投票してしまう。 当然、愛工大附属も全員が投票。結果は――
【愛工大附属:9点】
満票。 完璧な「一本」返しだった。
【ROUND 2 WINNER:愛工大附属】
画面に表示された文字に、葉月高校は言葉を失う。 スコアは、1対1のタイに戻った。そして、それ以上に、僕たちは、相手の底知れない強さを見せつけられた。彼らは、僕たちとは全く違う武器で、完璧な答えを出してきたのだ。
画面の向こうで、リーダー格の男が、静かに頷いているのが見えた。 まるで、「データは取れた」とでも言うように。
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