第39話「第2回・オフ会おしゃれ王クソダサ選手権と終末」
料理はめちゃうま、世界観バッチリ、酒場のマスター・ゴルドンは原作に忠実で、ドイツ語でゲーム内の『噂話』を話し続けている。
ここはソード・オブ・アンダーワールドの公式カフェ、『ゴルドンの酒場』だ。ソルソルはバブオルカのパフェをつつきながら、「これでこそ公式カフェだよな……」としみじみ目を閉じ、上を向いていた。
が。
隣の席が空くと、場違いなモーニングを着たベルザリオが座った。
いつものメンバー、迷惑三銃士の身内のみで行われる『オフ会おしゃれ王・クソダサ選手権』で2度目のトロフィーを貰わぬために、気合いを入れて来てしまった装いだった。
さらにその隣には、暁大吾と、暁大地。
きっとゲーム好きの息子を公式カフェに連れてきただけなのだろう、大吾はゲーム内の郷土料理という設定のシチューに『これ、カレー粉入れたほうが絶対美味いだろ』とケチをつけている。
さて、クソダサ選手権。
2分後にベルザリオの席へ現れたのは、やはり古着系で固めたグリングリンだ。シャカシャカした材質の白のジャケットに、スパンコールのついたピーコックグリーンのサルエルパンツ。
彼はベルザリオを視界に入れた途端、忍者のように気配を消して、ススス……と、ベルザリオから遠い席へ座った。
グリングリンの次に来た、全身を陽キャ御用達ブランドで固めたピザリエルもまた、ベルザリオの横をそっとスルー。磁石で引き寄せられるように、グリングリンの隣へ座る。
ベルザリオは仲間外れにされてしまったことに気付き、グリングリンとピザリエルに声をかけた。
「貴様ら、何故私から2メートル離れた席に座る?」
「だってェ、オレまで『モーニングおじさん』の仲間だと思われるのやだし……」
「TPOって知ってます?それ、新郎新婦のお父さんしか着ないやつですよ」
このやりとりに、大地は盛大に吹き出してしまう。彼もまた、隣の席のモーニングおじさんの店内での浮き方にツッコミを入れたくて仕方なく、その友人らしき人物たちが思いっきり本音を言ってくれたことで一種のカタルシスを味わっていたのだ。
ベルザリオはキョロキョロと辺りを見渡し、ゴルドンの酒場でのドレスコードは何だろうかと探ろうとする。周りには、露出の多い猫耳コスプレ、どうやって作ったのかわからない甲冑を着た騎士コスプレ、そしてパーカーにジーンズなどの多種多様なファッションの者たち。
そんな中から、ベルザリオはソルソルの姿を見つけてしまう。
「ああ、ソルソル。貴様はいつもちょうどいいところにいるな。ひとつ質問だが、この服装のどこが間違っている?」
「ええっとぉ……間違って、ないです……」
ソルソルは本音を飲み込んだ。
本当は『間違いだらけですけど!?』と言いたかった。
だが相手は上司だ、言えるわけもない。
「ピザリエル、グリングリン。貴様ら、本当は私を陥れ、第2回・オフ会おしゃれ王クソダサ選手権のトロフィーから逃れたいだけだろう」
「違う違う違う!」
「ホントに、ガチで、『普通の店に気合い入れて正装で来ちゃった奴』こそクソダサですから!」
「正装で来て、何が悪い。そこのアロハシャツにサングラスの紳士、この3人の中で誰が最もダサいだろうか?」
「ダサさで言えば、スパンコールサルエルパンツのそいつだ。だが、『高級レストランでもないのに正装を着てきた』あんたも、ダサいというか……『痛い』な……」
「い、痛い……!?」
ソルソルはじんわりと、自分の中の『なにか』が満たされるのを感じていた。あのベルザリオが、ダサいを通り越して痛いと言われている。快感だった。もっとやれ、とニヤニヤした。
「いや待て、そこのクオリティの低いバブオルカの被り物をしている男のほうが痛いだろう!」
「えっ、僕……?」
「ああ、ラザニエルだったか。貴様のほうが、この場所で最も痛いはずだ。手縫いのバブオルカの被り物、布の色のチョイスを間違えている。そこはネイビーブルーではなくインディゴブルーだろう!公式への愛が足りん!」
「布のチョイスを間違えてる……愛が足りない……せっかく楽しくコスプレして、せっかく美味しいものを食べに来たのに……もういい。地球、終わらせる」
ラザニエルの手には、いつの間にか終末のラッパ。彼はスゥーー、と大きく息を吸い込み、マウスピースに口をつけ。
音を鳴らす寸前、大地に止められた。
「おい、そこの正装おじさん。人のコスプレにケチつけるのは、この店じゃルール違反って知らないのかよ」
「……大地」
「ネイビーかインディゴか知らないけど、愛はあるだろ手縫いなんだから!正装おじさん、あんた、バッチリ決めてるけど、この店でいちばんダサいよ。服よりも何よりも、心がダサいんだ!」
「心が、ダサ……ッ!!?」
大地の言葉に、ベルザリオは思わず固まる。
「ファッションではなく、心が……」
ラザニエルはラッパをしまい、ピザリエルとグリングリンはニヤニヤしながら緑のちいさなトロフィーをベルザリオに手渡した。
ベルザリオは己の精神性により、2度目のクソダサ選手権も優勝してしまったのだ。
「……今回は、そのクソダサトロフィーを受け取ってやろう。だが、次こそは……!」
「次もベルザリオだと思うよォ?」
「我々に勝とうなど、1000年早いですからね」
ピザリエルとグリングリンはようやくベルザリオと同じ席に座り、ゲーム内の郷土料理のシチューをみんなで頼んだ。
そして口々に言うのだ。
「うーん、このシチュー……」
「ええ、カレー粉を入れたほうが美味しいですよね」
「間違いない」
彼らがシチューを食べる頃には、もう誰も怒っている者はいなかったし、傷ついた者だっていなかった。
ゴルドン役のマスターが巨大なヴルストを頼んだ客に、『騎士団長の伝説』をドイツ語で話していたが、そのモーションがどう見ても下ネタで、みんなして動画に撮ろうとしていたので。
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