第22話「清潔感ってなんだ?」

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 【プリンス孫さん】


 ソード・オブ・アンダーワールドというオンラインゲームをプレイしている者です。

 友人と3人でプレイ中なのですが、今日はカフェにてオフ会をしたいと言われました。

 どんな服装で行けばいいのかわかりません。

 助けてください。


 【ラザ天】


 清潔感のあるきれいめカジュアルなら、まず失敗しませんよ。

 ファッションセンスに自信がなければ、アパレルショップの店員さんに全身コーデをおまかせするのもオススメです。


 【プリンス孫さん】


 ありがとうございます。

 試してみます、とても助かりました。


 *


「でさ、『清潔感』って言葉にモヤってるんだけど、『感』って結局『~っぽく見える』ってだけだよね?だったらもう『清潔』でいいじゃん」

 

「あーわかる。それを言うなら『満腹感』もそうだよな。『感』じゃなくて『満腹』まで食いたいっていうか」

 

「その点この『満・満・満腹デラックスパフェ』ってものすごく優秀だよね。全力でこっちを満たしに来てるもん」

 

「過ぎたるは猶及ばざるが如しって知ってる?」 


 休日の昼。

 この日、ラザニエルとソルソルは近所のカフェで巨大なパフェに舌鼓を打っていた。 

 仕事を忘れ、美味しいスイーツでリフレッシュ。

 なのにこんなタイミングで、私服のベルザリオ課長が一人でやってきた。

 ――きれいめカジュアルコーデに身を包んで。


「え、待って。ベルザリオ課長来たんだけど……」

 

「なんか、いつもと雰囲気違わない?」

 

「……だよな、『清潔感』って感じ……」

 

「いつもは『ザ・潔癖!』なのにね」

 

「まだ本気出してないんだよ。あと2段階変身残してるわ、あれ」 


 その2分後、現れたのはグリングリン。

 服装は古着系。白の襟つきシャツに、伊勢丹の紙袋みたいなチェック柄のサロペットという絶妙にダサい組み合わせだ。

 彼は自分のファッションを棚に上げ、ベルザリオの前の席にドカッと座ると、似合わぬ服を指差しゲラゲラ笑う。


「うっわ、ベルザリオの服だっっっせ!」

 

「黙れグリングリン。貴様のほうがダサい」

 

「いや待って、なにその『清潔感』!」

 

「清潔感の何が悪い」

 

「いや、だって清潔『感』ってなによ。『~っぽく見える』ってだけじゃん。いつもの潔癖どこいった」


「別に潔癖ではないのだが」

 

「いや知ってるけどさあ。イメージの問題?」 


 それからさらに2分後、ピザリエルが到着。

 全身をブランドもので統一した、もはや何を目指しているのかわからない装いだ。


「うっわ、ベルザリオの服だっっっさ!」

 

「黙れピザリエル。貴様のほうがダサい」

 

「いえ、その、ベルザリオは『ダサい』を通り越してなんだか『哀れ』なんですよ……」

 

「うん、わかる。なんか、説明むずかしいんだけど、なんか『哀れ』だよなあ……」

 

「……………………」


 きれいめカジュアルのベルザリオ課長は、ソルソルから見てもいつもより小さく見えた。

 威圧感が足りないのだ。いつものスーツ姿なら、『感』なんてものじゃない、文字通りの『威圧』の権化なのに。


「うーん、やっぱネームドに庶民の服着せたらダメだわ」

 

「あーわかる。魔王が初期装備着てる感じする」


 野次馬しながらパフェを食らい、ラザニエルはふと、愚痴とかなんでも聞きますチャットの相談者のことを思い出す。

 きっと彼も、ベルザリオ課長のようなきれいめカジュアルコーデでオフ会へ向かったことだろう。

 しかしまあ、このコーデが壊滅的に似合わないベルザリオのほうが少数派なので、一旦このことは頭の中から追い出すことにした。


 一方、迷惑三銃士のコーデ論争は一旦落ち着き、グリングリンが小さな箱から緑のトロフィーを出したことで決着を見せたようだ。


「じゃ、今回の『オフ会おしゃれ王・クソダサ選手権』の映えある初代王者は~」

 

「ベルザリオに決定~!で、いいですよね?」


 不服そうに小さなトロフィーを受け取るベルザリオ。その眉間には、みっしりとシワが寄っている。

 そして野次馬していたソルソルは、食べかけのパフェにジャクッとスプーンを差し。

 震える声で、信じたくない現実に触れた。


「なあ、今、『オフ会おしゃれ王・クソダサ選手権』って言わなかった……?」

 

「言ってたね」

 

「『オフ会』ってことは、ベルザリオ課長って……もしかして、ネトゲでハブられて……ない……?」


 そう、今までベルザリオはネトゲをやるタイプではないと思われてきた。

 だから、迷惑三銃士の中でも唯一ハブられていると思ってきた。

 が、ラザニエルは確信している。

 愚痴とかなんでも聞きますチャットに現れた――きれいめカジュアルの服を着てオフ会へ行くと言った彼。

 彼の正体は、おそらく。

  

「うん、白黒ハニーヌのプリンス孫さんだね」

 

「ラザ、ラッパ吹こう。世界、終わらせよう」

 

「やだよ。僕まだパフェ食べ終わってないもん」


 そう言って、ラザニエルはパフェの続きをつつき、ソルソルは隣のギルドハウスの白黒ハニーヌがまさかのベルザリオ課長であったことに絶望。

 食欲を失い、残りのパフェを親友にあげた。


 *


 ──愚痴とかなんでも聞きますチャットへようこそ──


 【プリンス孫さん】


 清潔感のあるきれいめカジュアルコーデでオフ会へ行ったら、大失敗しました。

 『オフ会おしゃれ王・クソダサ選手権』の初代王者となってしまったので、次回は愛用のモーニングを着ていこうかと考えております。

 

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