第14話「閑話・プレゼント選び、おすすめは?」

 待ちに待ったネトゲの拡張パックが発売された日、ラザニエルとソルソルは、朝から最寄りのゲームショップにダッシュしていた。


「店員さん、『ソード・オブ・アンダーワールド~冥界からの魔物~』の、バブオルカぬいぐるみ付き、まだありますか!」


 興奮気味に詰め寄るラザニエルの背後で、ソルソルがあきれ顔でつぶやく。


「ラザ、普通のでいいだろ。ぬいぐるみとかどうせすぐホコリかぶって終わるんだから」

「そんなことないもん。今回しか手に入らない限定おまけなんだよ?」

「2日で飽きて終了フラグしか立ってないんだわ」


 ラザニエルは棚に展示されている、ゲーム内のシャチ型ボス・バブオルカのぬいぐるみを愛おしそうに見つめるが、結局、棚に戻した。


「ぷっくー……」

「その顔やめろ、負けヒロインかお前は」


 と、そこへ――


「うーむ……」


 ソルソルの視界に、突然ロマンスグレーの髪をオールバックにした、ダンディな紳士が入り込んできた。


「ヒッ!ベルザリオ課長!?……じゃない……?」


 見た目はそっくりだが、どこか温かみのある雰囲気が違っている。彼はゲームの棚を前に、なにやら困っているようだった。


「どうしたの、おじさん?」


 ラザニエルは、放っておけず声をかける。


「実はね、孫にゲームを買ってやりたくてな。最近、友だちができたらしくて。皆で楽しめるものがいいと思って」


 ラザニエルは勝手に想像した。「きっと、初孫が友だちを連れてきて、おじいちゃんがはしゃいじゃったんだな」と。


「それならこれがおすすめだよ!『ソード・オブ・アンダーワールド』っていうオンラインゲーム!新しい拡張パックも出てるし、おまけのぬいぐるみもついてる!」

「ふむふむ、なるほど。……このぬいぐるみ、孫が喜びそうだな」

「ふふ、よかったらゲーム機も一緒に買ってね!」


 いい雰囲気で盛り上がっている中、ふとラザニエルは尋ねた。


「そういえば、おじさんの名前は?」

「我輩の名か?……孫には『ブブおじいちゃん』と呼ばれておるよ」

「ブブ……」


 まさかの『ブブ』に、ラザニエルは「可愛い!」とほっこりし、ソルソルは完全に肩透かしを食らった。


「ソルソルです。よろしくね、ブブおじいちゃん」

「ソルソル……?フム、仕事ができなさそうな名前だ」

「は!?失礼すぎだろ、さすがは顔がベルザリオだな!?」


 その後、ブブおじいちゃんはゲーム機と拡張パックを無事購入し、満足げに店を後にした。


「……今の人、課長の父親とか?」

「いや、課長に子どもがいる話は聞いたことないけどな。……まさか他人のそら似?」


 *

 

 ──そして数時間後。

 地球某所、蝿の王の別荘にて。


「ベルザリオ」


 執務室の扉を開け、ロマンスグレーの紳士が重々しい声で孫の名を呼ぶ。周囲の空気はゴゴゴ……と音を立てて揺れるほど、重たい圧が漂っていた。


「お久しゅうございます、蝿の王よ」


 ピザリエルとグリングリンと共に『迷惑兵器』の開発会議をしていたベルザリオは、すぐに立ち上がって恭しく一礼。


 圧に耐えられず、グリングリンとピザリエルはそっと空気になった。


 蝿の王――もといブブおじいちゃんは、手に下げていた紙袋を掲げる。


「土産だ。皆で楽しむがよい」

「はっ、ありがたき幸せ……」


 と、真面目な声で礼を言いつつも、ベルザリオの目は袋の中身をチェックし始める。


「成程、ゲーム機……これは人間の脳の報酬系に作用し、時間を奪う依存系の娯楽。人間を堕落させるには最適のツール……」


 頭の中がいつも通り『悪の方向』にフル稼働しているベルザリオを見て、ブブおじいちゃんは少し安心したように微笑む。


「それから、ぬいぐるみだ」

「ぬいぐるみ……」


 ブブおじいちゃんが期待する「わーいありがとうブブおじいちゃん!」というリアクションは、来なかった。


 代わりにベルザリオは、バブオルカぬいぐるみのタグを読み上げる。


「素材はポリエステル……なるほど、燃えやすいな。瞬間接着剤を塗布してベッドに設置すれば、火炎トラップとして使用可能……」

「……不満か?」

「滅相もございません。実に有用な素材です」


 ベルザリオが『図画工作』モードに入っているときは、感情としては喜んでいる状態だ。ブブおじいちゃんは、ようやくほっと息をついた。


「ハハハ、相変わらずよな……では、ブブおじ……ではなく、我輩はそろそろ戻る」

「ブブおじ?」

「今、ブブおじって言いました?」

「…………頼むから、何も言わないでくれ」


 ベルザリオは、真っ赤になって小さくなった。


「ちょ、ベルザリオ顔真っ赤」

「え、呼んでみてもいい?ブブおじいちゃん」

「………………コラボ解消するか?」

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