Track3:数日後-2(缶詰)

「……ねえねえ」


「ちょっと、デザートも欲しくない?」


「欲しいよねー」


「実はね~、フルーツの缶詰見つけたんだー」


//缶詰をタップする音


「食料庫に大量にあったの。ラベルはないけど、フルーツって棚に置いてあったから。多分毎日食べても減らないぐらいいっぱいあったよ」


「さっそく開け……あれっ」


「この缶詰……どうやって開けるんだろ」


「キミわかる? えーっとね、よくある感じの丸い、円柱状なんだけど……。指を入れるとこが無いんだよね~」


//缶詰をタップする音


「うーん?」


「キミはわかる? 叩くとこんな音がします」


//缶詰をタップする音


「ん?」


//缶詰をタップする音


「……さすがに、音だけじゃわかるわけないよね」


「あ。ボトルみたいに回して開けるのかも」


「ということでキミ。よろしく」


「はーい。お手々出してね」


「ほい」


//缶詰をタップする音


「よろしくお願いしますっ」



「……うーん。回して開けるタイプでもないみたいだね」


「えっ、急にバイクに乗り出してどうしたの? 急にコーナーを攻めたくなっちゃった?」


「……いや、確かに手の角度が違うね。あ、何かで缶詰を開けるの?」


「あー、見たことあるかも。使ったことないけど。えっと、なんだっけ。缶…かんぬき……いや違うな~」


「えっ、どうしたの。急に見えない敵と戦いはじめて。虚空を切り刻みたくなっちゃった?」


「ん……? あ~。缶切り、缶切りかぁ~。そうそう、それそれ」


「缶詰があるってことは、当然缶切りもあるよね」


//衣擦れ音


「ちょっと探してきますっ」


//足音(遠のく)


//離れた所からクラシック曲の一部がノイズ混じりに一瞬聞こえる


//足音(近づく)


「おまたせー。すぐ見つかったよ」


「ご丁寧に『缶切り』って書いてありました~」


「それで、です。この金属製のよくわかんない形の……工具? みたいなこれ」


「どうやって使うかわかる?」


「あっ、触ってみる?」


「はい、手をだして」


「ほい」


「……どう、わかる? あっ気をつけてね。先っぽ、尖ってるとこあるから」


「なんか……わかりましたって感じの手つきだね」


「ん? あ、缶詰? テーブルに置くね」


//缶詰が置かれる音


「どう? ……えっ、わかるんだ」


//缶詰を開ける音


「おっ、おおー。おー、すごい。開いてくー」


「え、ちょっとまって。私もやってみたい」


「選手交代でーす」


//缶詰が移動する音


「えっと、この尖ってる部分を差し込んでたよね……。それで~缶のここに引っ掛けるのかな?」


「あってるよね。で、こうやってぐいぐいっと」


//缶詰を開けようとする音


「あれっ? んー。んん~? 結構コツがいる感じ?」


「んー。これからの為にもマスターしておきたいけど……うまく教えてもわらわないとな~」


「あっ、良いこと思いついた~」


//缶詰が移動する音

//衣擦れ音


「はい、ちょっと深く座ってー。ほい、もっと」


「そうそう。じゃあ、失礼しまーす」


//衣擦れ音


「フフッ。こうやって、手とり足取り~、二人羽織みたいに教えて貰えればすぐ覚えられちゃうと思うな~」


「おー。照れちゃって声も出ないか~。……ごめんごめん。真面目に教えて」


「ほら、遠慮がちな手を伸ばして」


「私の手に添えて」


「そう……抱きしめるみたいに」


「あ~、本当にハグしちゃだめだぞ~。今はお勉強の時間なのでー」


「……はい。じゃあ缶詰の位置とか把握できた? じゃあ開けていこう」


//缶詰を開ける音


「……おお、これがキミの、私達の力だね」


//缶詰を開ける音


「……はじめての共同作業は缶切りでした……なんちて」


//缶詰を開ける音


「あ、そこまでで大丈夫。うん。」


「中身は~。おおー。これ桃だねー。途中から匂いでわかってたけど」


「缶切りの使い方も覚えたし、これでいつでも桃が食べられるねー」


「まあ、残りの缶詰が桃かはわからないんだけど。ラベルがないから」


「それはさておき、ご褒美をあげましょうー」


「……えっと、フォークで……」


「ちょっと食べにくいかもだけど、ほらお口を開けてー。体は右にちょっと傾けて」


//缶詰から桃をフォークで取り出す音。


「はい、あーん。って、あ、大きすぎたかも。え、っと。もっと口を開いてー」


「はい、もっとー。いくよー。はい、あーん」


「……どう、美味し……ふ、フフッ」


「キミの顔、フッ。リス。リスみたいになってる。フフッ」


「可愛いー」





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