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「(やっぱり、土方さんのアレだぜ。)」


 原田は、小指を立てながらニヤニヤしていた。それを見て、永倉は顎に手を置く。


「(あながち間違ってないかもしれない。あやしいしな。)」

「(原田さん!そんなに、身を乗り出すと尾行がばれるよ!)」


 2人を止めるように、藤堂が言った。藤堂が人差し指を立てて、しーっといいながら口元にあてる。それとは反対に、沖田は両頬を少し膨らませながら頓珍漢なことを言っていた。本当に、漫才でもやっていてもおかしくない。こう見えても、耳はすこぶる良いのですと思いながらも4人の会話を聞いていた。


「(絶対、私に内緒で甘味処に行こうとしているんです!私との試合をほったらかして、あの二人!)」

「(総司、もっと艶のあることいえねぇのか。)」


 そう思いつつも、4人の目線が外れた隙に、煌妃は一気に間合いを詰めた。こんな時、忍の訓練をたしなんでいて良かったと思う。使い方は宝の持ち腐れかもしれないけど。


「(そうですか?尾行はもっと気配を消してやった方が良いと思いますが?)」

「「えっ!!?」」


 いつの間にか、4人の尾行犯の隣に煌妃が混ざって立っていた。4人の目の前には戻ってくる土方の姿が見えた、案の定、溜息をつきながら土方が近づいてくる。


「おい、お前ら・・・。いい大人がよってたかって。」

「土方さ~ん!ひどいですよ、私に内緒でおいしいもの食べに行こうとするなんて!」

「誰が言った。総司!」


 違うの?っというような顔を沖田はしていた。煌妃は、歳と似合わず子供っぽい沖田に笑えた。これが、刀を振るうとめっぽう強いんだから本当に飽きない。笑いを堪えていてると、その場を取り繕うかのような声が聞こえた。


「ほらっ、さっき険悪な空気でさ・・えーと、仲間になったからには仲良くしたいというか。」


 照れたようにもじもじしながらいう藤堂はとても可愛いと思った。それは、沖田とは違う意味でまだ幼さが残っていて、とても弟気質だったと感じたからかもしれない。


「平助!正直に言えばいいでしょう。おもしろそうだからだって!!それにしても、ひどいですよ~私との試合をほったらかして出かけるなんて!」


 コラッと藤堂は、沖田の首を軽く絞めていた。そんな2人を見て煌妃は、下を向いて肩を小刻みにふるわせる。4人は怒ったのかとビクビクしながら、煌妃の顔を覗こうとした。


「いやっ、あの・・・。」

「・・・ぷっ、あっははは!おもしろすぎ!!沖田さん、試合忘れてないですよ!」


 煌妃は、お腹を抱えて笑いながら首を傾げた。そして、笑いすぎて出てきた涙を一掬いすると、笑うのを止めた。しかし、肩はまだ小刻みに震えている。ちょっと止まる気がしない。


「ちょっと傷の手当てをと思って通いなれたところに行こうかと・・っくぷっあはは。」

「そうでした。試合しても大丈夫ですか?結構、深かったですよね。」


 今度は、沖田が不思議そうに首を傾げた。傷を負っている煌妃が普通の人と同じように、動いているので忘れていたようだ。


「オレらを追ってきた理由は、それだけじゃないんだよな?どういう風の吹き回し?」


 と言って煌妃は、気を取り直したように不適な笑みを浮かべた。


「もう一度、昨夜の事件を調べなおしたんだ。そしたらよ、切り口がどうも刀傷じゃねぇーってことが分かった。取り調べ役の見解が間違っていたってことだ。」


 気まずそうに原田が頭をぽりぽりかく。わざわざそれを言いに付けてきたのか、と呆れたように溜息をついた。なぜなら、煌妃は信用してもらえないから尾行されていたと思っていた。それは、自分が白狼なのだから仕方がないことであると思いつつもどこか心の中で期待をしていた。浪士組が、自分のせいで仲間割れすること。そうすれば、一緒にいなくて済む。『そうならなくて喜んでいる自分がいる』と自嘲しながら笑みをこぼした。


「気にしてないで。あなた方は大切なお役目を担っているんだ。注意深くなるって事は当たり前だよ。」


 自分の気持ちを隠しながら煌妃は、手をひらひらさせて、原田の腕をペチペチたたいた。すると、今まで黙っていた永倉が、質問を投げかけてきた。


「・・・んで、本当に女子なの?」


 気にするのはそこなの?その質問に煌妃は、とぼけた素振りをしながら笑った。


「さーてね。」


 そう言うと、煌妃は昨日の問屋がある方向へと歩いていった。こんなに面白いこと、素直に答えるのは愚かすぎる。少なからず、さっきよりは足取りが軽い。人と関わることを、極力避けてきたはずだが、いざ笑ったり悪戯したりするとそんな時間がとても愛おしく感じてしまう。優しい笑みを浮かべながら、煌妃は昨夜の場所に向かった。案の定、夜と違って人通りが多い。まだ、かすかに血鬼の血の匂いがまだ残っている。早く浄化してしまわないと、あやかしの通り道になってしまう。煌妃は昨夜、血鬼を斬る前に刀にかけた液体を、通りに少しずつまいていった。全ての液体が無くなると『ケガを治しに行ったときに、“龍水”も持ってこなきゃ』と小さく呟いた。そのとき、うまく尾行していると思っている数人がいることに気づいた。彼らは、近くにいると、気配で気づかれてしまうと思っているようで警戒しているようだった。煌妃は、彼らには、こういう仕事には向いていないと断言できると思っていた。『男達が集団行動していれば、流石に目立つでしょ。気配云々、すれ違う人を見てれば分かる』とクスリと人笑い。さっきのことから考えると、尾行しているのは、沖田と藤堂、永倉そして原田だと考えられる。土方は、性格から見て監察方にでも煌妃のことを調べるよう指示を出すため屯所へと帰ったのだろう。


「(何をやっているのでしょう?)」

「(さぁーな?おっ!また、動くみたいだぞ。)」


 ここが問屋ということは近くの泉に行くには、元来た道を戻って彼らが居る方向に進めばいい。夕方までには、戻ってこれそうにないのだけど仕方がない、と勝手に思いながらも足を進めた。そして、少なくても今の彼らの反応が面白く、そっちに集中したいと思うせいでもあった。


「(うわっ!!こっちにくるよ!)」

「(隠れろ!隠れろ!)」


 そんな彼らは、周りから見たら余りにもおかしな光景だった。『気づいてないのは、彼らだけだね』と気付かないふりをする。

 傷を治すには、お風呂並みの水か隠れ里の泉の水が必要だ。一番近くの泉まで行くことを土方に伝えるのも説明だけで気が重くなる。一応向かってはいるが、途中であきらめてしまいそうだ。隠れ里まで空也を呼びにいった白空が早く、戻ってくれば、龍水は空也が持ってきてくれるはず。しかし、なかなか戻ってくる気配がない。そんなことを思っていると、彼らの気配が近くなってくるに気づいた。どうやら逃げないで、通り過ぎるのを待つらしい。だから、あえて声をかけてみようと思う。もちろん、目が笑っていない口元だけの笑顔で――。


「沖田さん・・・に原田さん、永倉さん、藤堂さん。そんなに暇なんですか?」

「おっおぅ!奇遇だなぁ~!オレらもこっちに用があったんだ。」

「そっそうだょ!ねっ!新八さん!」

「総司の好きな甘味処があるってなっ!?」

「えっ!?はい、そうなんですよ。あそこの門を曲がるとすぐなんですょ!」

「へぇ~・・・。」


 4人に煌妃は疑いの眼差しを向ける。そのとき、綺麗な笛の音色とともに、鮮やかな衣装をまとった一座が沖田の指したお店の門から曲がって来るのが見えた。

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