第4話
「それで、七大魔王ってのはどこにいるんだ?」
「ん? 知らん!」
サクラは馬車の荷台から顔を出しながら、適当に答える。俺達は隣国に行く馬車に乗り、街を既に離れていた。
「なんで知らないんだよ」
「城に籠ってる奴、同じ場所を行ったり来たりしてる奴、どこにいるかも知れん奴。色んな奴がいるからなぁ」
「情報ゼロかよ・・・」
その発言にサクラが耳をピンと立て、何かを思い出したように振り返る。
「七大魔王を探したいのなら、側近を探すといいぞ」
「側近? 側近ってのはなんだ?」
「七大魔王には側近と呼ばれる右腕が一人いる。側近は七大魔王の代わりに表舞台に立ち、七大魔王の為に暗躍するのだ」
「なんでだ? 七大魔王が直接やればいいじゃないか」
「魔王同士は戦わねばならない使命を帯びている、それを避ける為に側近を動かし本人は魔王同士が会わないようにしているんだ」
「そうなのか・・・」
俺は情報をまとめる為にメモを取る。
七大魔王には側近と呼ばれる右腕がおり、そいつが魔王の為に表舞台で暗躍している。魔王同士は戦う使命がある。
そこまで書いたところで一つの疑問が浮かんだ。
「どうして魔王同士は戦うんだ?」
「世界最強の称号は皆欲しいものだろ? それに自分の地位を脅かす可能性のある者がいれば、排除したいと思うのは当然だろう」
自分の地位を脅かす者がいれば、排除する。父上の顔が思い浮かぶ。
そんな時、サクラが俺の頭を抱える様に抱き締めた。
「お前様、何か悪い事を考えているな?」
「なんだよ、やめろよ」
「短い付き合いだが分かるぞ、よしよし」
そう言いながら俺の頭を優しく撫でる。
俺は優しくサクラを振り解き、頭を振って思考を切替える。
「大丈夫だ、そこまで深刻じゃない」
「そうかぁ」
サクラは俺の顔を覗き込みながら、尻尾をぶんぶんと振った。
しばらく馬車に揺られていると、夜がやって来た。馬車は止まる事なく進み続け、また朝がやって来た。
そうしている内に隣の国へとやって来た。
「獣人の国、ガリュオーン王国・・・」
「ガリュオーン? アイツまだ生きてるのか」
地図を見る俺の横から、サクラが呟く。
サクラは地図を見ながら、ふんふんと鼻を鳴らす。
「知っているのか?」
「知ってるも何も、ガリュオーンは七大魔王の内の一人だ」
「えぇ!? なんでそういう事を最初に言わないんだ!」
「だって! 文字読めないもん!」
俺は手の平で顔を覆い、ため息をついた。
最初の七大魔王がよりによって王様とは、随分難易度が高い。だが、ひとつ引っかかる事があった。
「待て待て待て、魔王は表に出ないって話じゃなかったか?」
「む? 確かに。それに我が自由だった時には、ガリュオーンは国など持っていなかったな」
「と、とにかく情報を集めよう。街に着いたら情報収集だ。色々と混乱している」
馬車が街に入り、俺達は馬車から降り立つ。
ガリュオーンは獣人の国らしく、街の至る所に獣人がいた。犬耳、猫耳、狐や鳥の獣人も見える。
「ここならサクラも目立たないな」
「でもお前様は特に目立っているようだがな」
周囲の視線が俺を奇異の目で見ていた。
「とりあえず冒険者ギルドに行くぞ、情報を集めるんだ」
「了解、お前様」
サクラと一緒に街を歩き、冒険者ギルドに向かう。俺は街の中でも目立つ様で、冒険者ギルドに近付くにつれ獣人以外の種族もチラホラと見えるようになってきた。
「冒険者ギルドが見えて来たぞ、お前様!」
「ようやくか、精神的に疲れたな」
そうぼやきながら歩いていると、路地裏から少女が飛び出しぶつかって来た。
「なんだ?」
「た、助けて!」
「お前様!」
サクラが俺と少女を引っ張り大通りの中央に投げ飛ばす。路地裏から馬車が飛び出し、大通りを突っ切って向かいの壁に衝突した。
無理に路地裏を走って来たのか、馬車の両側が削れ落ちている。
馬車の中から数人の男が飛び出し、俺の腕の中の少女を指さした。
「いたぞ!」
「捕まえろ!」
俺は迫ってくる男達の気迫に押され、少し後ずさろうとした。その時、腕の中の少女が怯えた様に俺にしがみついた。
俺はとっさにその少女を抱え、駆け出すサクラに向かって飛び出した。
「逃げるぞサクラ!」
「はいよお前様!」
サクラは少女を抱えた俺を引っ掴み、屋根の上に飛び上がった。
サクラは俺を降ろそうとするが、次の瞬間男達も屋根の上に飛び上がってきた。
「どうするお前様」
「殺すなよ!」
俺は少女を抱えたまま屋根の上を走り出し、サクラは屋根の上にあがってきた男達と戦闘を開始した。
サクラは一瞬で男達を屋根から蹴り落とし、俺に追い付いてみせた。
「どこに逃げる?」
「一旦落ち着いて話を聞ける場所がいい、知らないか?」
少女は俺の腕の中でフルフルと震えながら、街の外れの方を指さした。
「よし乗れお前様、一瞬でちぎってやる」
俺は言われるがままにサクラに跨る。一瞬で狼の姿になり、屋根の上を駆け出した。
「待ちやがれ!」
追手が屋根上に登り、四足歩行で追い掛けてくる。咥えた剣がギラりと光る。
「飛ぶぞ! 舌を噛むなよお前様!」
サクラは力強く踏み込み、屋根から屋根へと飛び移ろうとジャンプした。追手はサクラよりも素早く、空中にいる間に追い付いてきた。
「返せ!」
「【反転】!」
俺は手を突き出し、獣人の追手に触れる。まるで見えない壁に突き返される様に追手は弾き飛び、受け身も取れずに屋根から転がり落ちた。
『路地裏に降りるぞお前様』
「人がいないことを確認しろよ」
サクラは軽やかに地面に着地し、俺達を降ろした。少女は俺の手を引き、路地裏をぐんぐんと進んでいく。
「ここ、安全な場所・・・」
「ここかぁ・・・」
少女が指さしたのは、地下に続く階段だった。すぐ側には酒屋の看板が置いてあり、いかにもアングラって雰囲気を醸し出していた。
「お前様、我が先に行こう」
「頼む」
少女を抱え、サクラの後ろに着いて階段を下りる。湿っているのか、足元からひんやりとした空気が昇ってくる。サクラが階段下の扉にピタリと張り付き、中の様子を探る。
「数人いるな」
「危なそうか?」
「分からん、とにかく入ってみよう」
サクラはドアノブに手をかけ、扉を押し開ける。入店を知らせる鈴が鳴る。
「閉店中って看板が読めなかったのかボケが」
「おじちゃん!」
「姫様!?」
少女は俺の腕の中から飛び出し、カウンターの奥にいた店主らしき獣人の男に飛び付いた。
男は驚いた様な顔で少女を受け止め、俺達を睨み付けた。
「おい、どういう事だ」
「睨むなよ、俺達も訳が分からないんだ」
少女は安心したのか、男の腕の中で泣きじゃくっている。男はため息をつき、俺達に椅子に座る様に促した。
少女が泣き止み落ち着いて椅子に座れるようになった頃、俺達の前に水の入ったコップが差し出された。
「それで、改めて。お前達は何者だ」
「俺はジハード・アーサー、こっちはサクラ。この街に来たらその少女が追われてたから助けた。以上だ」
「完結すぎんかお前様?」
「いや、大体分かった」
店主らしき男は二、三度頷き、深々と頭を下げた。
「この子に変わって感謝する、本当にありがとう」
「それでその子は誰なんだ? どうして狙われていた?」
「・・・俺はガルム、礼なら俺が払う。だから首を突っ込まないでくれ」
「事情くらい話してもいいんじゃないかな?」
サクラは水をぐいと飲み干し、ガルムに詰め寄る。ガルムは少女を庇う様に隠しながら、店の台の下から金の入った袋を取り出した。
「おじちゃん・・・」
「大丈夫、大丈夫だからね」
「これ・・・」
少女は懐から何かの紙を取り出し、ガルムに渡す。ガルムはそれを読むに連れ、顔が青ざめていく。
「クーデター・・・!?」
ガルムは不穏な一言を発する。
俺は身を乗り出し紙を覗き込もうとするが、ガルムはすぐに紙を破り捨てた。
「帰ってくれ、余所者には関係ない。この国からも離れろ」
「お前様、どうする?」
「人手がいる・・・ブリー、ハイレル、後はグレイモルにも声を掛けて・・・クソ!」
ガルム焦った様子でブツブツと独り言を言いながら店の中をひっくり返し始める。至る所から武器が転がり出て、ガルムはそれを一箇所に集める。
「おじちゃん!」
少女が叫ぶ。ガルムはピタリと動きを止め、耳と尻尾を垂らしながら振り返る。
「この人達も信用出来るよ」
「でも・・・会ったばかりです。俺は信用出来ない」
「私を庇ってくれた。見ず知らずなのに、自分も危なかったのに」
「ですが・・・あぁクソ!」
ガルムはその場に持っていた剣を叩き付け、俺達に向かって頭を下げた。
「旅のお方、どうか力を貸してください」
「事情を聞こうか」
「・・・このお方は、このガリュオーン王国の第二王女。【フラン・ガリュオーン】様だ」
「改めまして、助けてくださりありがとうございます」
フラン・ガリュオーンは礼儀正しい頭を下げた。その佇まいは気品溢れ、王族の立ち振る舞いである事が見て取れた。
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