追放された『反転英雄』、魔王達をぶっ倒して世界最強に成り上がる〜転生したら貴族家から追放された俺、もふもふ美少女達と最強の冒険者ライフを送る〜
破魔矢 射てまえ太郎
第1話
俺の名前はジハード・アーサー・バレンタイン。大貴族バレンタイン家の待望の次男にして、前世の記憶を持つ赤ん坊だ。前世は日本のブラック企業で社畜をやっていたはずだが、どうやら過労死してしまったようだ。
やりたい事もやれない人生を送っていた俺は後悔の念を抱きながら、モニターの青白い光を目に焼き付けながら死んだ。
そして、目が覚めたら西洋チックな異世界に転生していた。
「あらあなた、ジハードがお目覚めよ」
「おぉ、ジハード! いい目だ、これは立派な剣士になるぞ!」
ライオンのような見た目の筋肉ムキムキマッチョマンが、俺を抱き上げ激しく上下に揺らす。この人は俺の父親(と言っても前世ではなく今世の父親)で、レオーネ・バレンタイン。生後一年の赤ん坊を上下に激しく揺らすくらい、良くも悪くも豪快な男だ。
その隣にいるハリウッド女優顔負けのナイスバディをした美人はマリー・バレンタイン、俺の母親でバレンタイン家を支える精神的な柱だ。
家族はもう一人。ベレッタ・バレンタインと言う兄がいるが、あまり俺に興味がないのか顔を見る事がほとんどない。他にもメイドや執事、乳母や料理人等々数えきれない程の使用人がいる。さすが大貴族だ。
「旦那様、そろそろお時間です」
「む、もうそんな時間か! ではな皆の者!」
乳母に授乳されながら、レオーネ・バレンタインが剣を持って俺の頭を撫でる。この歳になって他者から授乳されるのは複雑な気分だったが、もう既に赤ん坊をやって一年。人間の慣れとは怖いものだ。
この世界についてはまだよく分からないが、ひとまず授かった第二の人生。前世では仕事で忙しくやりたい事も出来なかったが、今世ではやりたい事をこれでもかと堪能してみせる。
(あ……出そう)
俺は乳母の腕の中で粗相する。おむつに生暖かい感触が伝わる。俺は大きく息を吸い込み、勢いよく泣き始めた。事態を把握した乳母は慌てるマリー・バレンタインをよそに、ベビーベッドで手際よくおむつを変えてくれる。この歳になって自分のおしめを変えられるのも複雑だが、人間の慣れとは怖いものだ。
______________________
俺はすくすくと育ち、16歳の誕生日を迎えた。この世界では16歳で成人となり、【洗礼の儀】を受ける。洗礼の儀を受けた者はギフトと呼ばれる特別な力を得て、成人と認められる。ギフトとは種の壁を超えた異能の力で、物によっては己の人生を大きく左右する。俺はその洗礼の儀を受けるため、町から離れた教会にやって来た。教会には他の貴族や街の観衆、王族の関係者などがやって来ていた。
バレンタイン家は代々有名な剣士の家系だ。歴代に渡り戦果を上げ、貴族の地位をその実力だけで確実なものとしている。
「お前は剣の才能に恵まれなかったが、バレンタイン家の次男として相応しいギフトを得られるだろう」
「はい父上、必ず期待に応えてみせます!」
「お前の兄べレッタは【剣聖】のギフトを得て、今や国一番の剣士だ! お前にも期待しているからな
!」
父上は俺の背中を強く押し出し、周囲の貴族との歓談に移る。
「剣の才能に恵まれなかった」父上の言葉には理由があった。なんでも父上の教育方針らしく、様々な先生や達人を呼んで5歳の頃から毎日剣の稽古を続けていた。しかし兄や父上には遠く及ばず、積み重なるのは父上からの叱責と夥しい傷だけだった。
そんな俺にも最後のチャンスがある。この【洗礼の儀】で特別な剣のギフトを授かれば俺にも剣の道が開かれる。
もしかしたら魔術系のギフトが手に入るかもしれない。魔術はさっぱり学んでいないが、ギフトを授かってから勉強しても遅くないはずだ。
「おい」
「あ、兄上!」
俺の肩を叩いたのは兄上のベレッタだった。ギフトを授かってから毎日父上と稽古に明け暮れ、剣聖として今も名を挙げ続けている。この前の戦争では敵の大将を討ち取ったと聞いた。
俺は姿勢を正し、兄上に向き合った。
「誕生日おめでとう」
「ありがとうございます! ギフトを授かって兄上の後に着いて行けるよう努力します!」
「お前に期待などしていない」
兄上はそう冷たく言い放つと、静かに俺の元から去っていった。
兄上とは上手くいっていない。口数の少ない人なのだと知ったのは、剣の稽古で一緒になった時だった。父上に一緒に扱かれている時にもただ黙々と剣を振るい続けていた。その一生懸命さに、俺は尊敬の念を抱いていた。
それから仲良くなろうと努力はしたが、兄上は父上との剣の稽古で忙しく話す機会も少なかった。
あんな言葉を掛けてくる兄上は、俺にとっては初めてだった。遠い人だった兄上が、更に遠くに行ってしまった様に感じた。
「さぁ! それではそろそろ【洗礼の儀】を執り行おうではないか!」
父上が手を叩き注目を浴びる。すぐ側にはギフトの内容を告げる神父が待機している。
俺はすぐに父上の隣に飛んでいき、神父のいる壇上に登る。
「では失礼致します」
神父は俺の頭に手を置き、祝詞を唱え始める。数十秒経つと、静かに俺の頭から手を離した。
「発表します。ジハード・アーサー・バレンタイン、ギフトは【反転】です」
「はん・・・てん?」
俺の口から間抜けな声が漏れ出た。
神父は続け様に口を開く。
「触れた物をひっくり返す事が出来る、との事です」
次の瞬間、神父の首が跳ね飛ばされた。
血飛沫の中、剣を持った父上が神父の体を蹴り飛ばす。その冷たい視線は俺をじっとりと見つめていた。
「剣の才のない者は不要だ、殺してなかった事にしてやる」
「レオーネ様が乱心だ!」
俺は腰を抜かしその場に崩れ落ちる。会場から悲鳴が上がる。護衛の騎士達が一斉に剣を抜き父上に向ける。この場には国の貴族や王族の関係者が集まっている、当然護衛も一流を連れて来ていた。
だがその誰も、俺を助けようとはしなかった。
父上が剣を大きく振り上げる。何度も見た剣撃が脳裏を過ぎる。
「ひっ」
反射的に体を縮め、カエルの様に飛ぶ。今さっきまで俺がいた壇上は粉々に砕け、会場を真っ二つに切り裂いている。教会の壁は崩れ支えを失った天井が崩落する。
(逃げるんだ、殺される!)
俺は必死に土煙の中を抜け、崩れた壁から教会の外に逃げる。いつの間にか降り出していた雨の中、俺は何度も転びながら足を動かし続けた。
獅子の咆哮が背後から聞こえる。森をなぎ倒しながら父上が追ってきている。
(どうしてこんな事に、どうして)
何度も同じ問いが頭の中で繰り返される。俺がもっと剣の鍛錬を上手に出来ていれば。俺がもっと優秀なギフトを手に入れていれば。俺がもっと何かをやりたいと熱望していれば。俺がもっと努力していれば。俺がもっと父上と話が出来ていれば。俺が。
「何も悪い事してないのに・・・!」
背中に熱いものが走る。続いて痛みが遅れてやってくる。
急に体が重くなり、俺はその場に倒れ伏す。振り返ると、馬に跨った兄上が血のついた剣を握り締めていた。
「兄上・・・!」
「お前はもうこの家の人間では無い、二度とバレンタイン家の名を名乗るなよ」
「兄上・・・助けて・・・」
「消えろ、そしてもう二度と戻ってくるな」
兄上はそう言うと、小さな袋を投げ付けてくる。その中には傷薬といくつかの金銭が入っていた。
兄上は俺が中身を確認した事を見届けると、マントを翻し引き返して行った。
「兄上も・・・」
俺は一瞬で全てを失った。家も、家族も、地位も、努力も。俺には何が残っている。
幼少から剣の稽古に全てを捧げた俺に、今何が残っている。
何も。
残っていない。
剣の道すらも絶たれた。神は俺に味方しなかった。兄上も父上も俺に味方しなかった。誰も俺を助けなかった。誰も。
「ぐっ・・・」
俺は歯を噛み締める。傷薬を背中の傷に塗り、這いながら森を進む。傷に刺さるように雨が染み込む。
「絶対許さない・・・」
泥の中を溺れる様に進む。
「絶対に見返してやる・・・!」
俺の中の全てが反転した。
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