第17話:街丘由佳

――胸が少し切なくなっていた。


亜紀さん、玲奈さん、麻里さん。

さっきまで罵声と爆笑を撒き散らしていた三人が、肩を寄せ合って歌い上げた【Magic of Love】。

あのハーモニーは――ただのカラオケなんかじゃない。

女たちの想いがぶつかり合って、でも一つになった一瞬。

聞いているうちに、どうしようもなく胸を揺さぶられてしまった。


「直也さんも、本当に罪つくりな男性だよね……」

思わず零れた言葉に、隣の彩花が苦笑いを浮かべる。


「ほんと。秀介どころじゃないわね、これは」


私も笑って頷くしかなかった。

けれど笑いの奥には、どうしようもない切なさが滲んでいた。


――誰が悪いわけじゃない。

直也さんが女たちを弄んでいるわけでもない。

それでも、もうこうなってしまった以上、誰かが泣く。

いや、誰かどころじゃない。

恐らく、直也さんの周囲のほとんどの女性が、最後には泣くことになる。


そういう運命を背負ってしまっている人なんだ。


「……もう、これは行き着くところまで行くしかないのよ」

心の中でそう呟いた。


彩花がグラスを傾けながら言った。

「せめてさ、この熱唱を、直也さんに見せてやりたかったね」


私は首を振った。

「だめだよ。彼に限らず、世の中の男性って、こういうのは見せられるとドン引きするものだから。見せないのが正解」


彩花は「そっか」と笑ったけど、私の胸の中には妙な確信があった。

女たちの情念は、女同士だからこそ理解できる。

男に見せても、ただ怯ませるだけ。


だからこの夜の熱唱は、女たちの胸の奥にだけ刻まれる――そんな気がしてならなかった。

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