第11話:カラオケスナック小片谷ママ

――はい、来ました。


リモコンに表示された【二人セゾン】の文字。

その瞬間、全員の肩が揺れた。


――ブッ――――!!!!!!!!!!


やっぱりね。

タイトル見ただけで、もう盛大に酒を吹き散らすオンナたち。


「ちょっと亜紀さん!もうやめてよwww」

由佳と彩花が涙を流しながら爆笑している。

「何歌っても直也さん案件にしか聞こえないからwwwもう本当にやめてwww」


梨奈なんて、テーブルに突っ伏してゲラゲラ笑っている。

「マジで心震わせるわwww 別の意味でwww」


……ほんと、この店どうなってんの。


イントロが流れる。

亜紀が真剣な顔でマイクを握る。


「春夏で〜恋をして〜秋冬で〜去っていく〜♪」


――はい来ました。


「直也と保奈美ちゃんの事を歌ってんの!?(怒)」

玲奈が真っ赤になってテーブルを叩く。

「“秋冬で去っていく”とか、どこの未来予知!?ふざけてんの!?」


麻里も負けじと噛みつく。

「“愛を拒否しないで〜”って、保奈美ちゃんへの追い風ソングじゃない!!(怒) これ、絶対ケンカ売ってるでしょ!」


亜紀は必死で歌い続ける。

でもその必死さが逆に笑いを誘うのよ。


「君はセゾン〜君はセゾン〜♪」


由佳と彩花が机を叩いて爆笑。

「この歌って直也さんのことじゃんwww」

「いや保奈美ちゃんだってwww」


梨奈が涙で化粧崩しながらもツッコミ。

「もう二人セゾンじゃなくて五人セゾンでしょ!直也さん取り巻きすぎwww」


……結局、亜紀が最後まで歌い切ったのよ。

真剣そのものの表情で。

でも、店内は爆笑と罵声と涙の洪水。


「ほんとオンナって、どうしてこうも地雷を踏みにいくのかしら」

私はグラスを拭きながら、心の中で呟いた。


――はい、これにて第四幕終了。

もう次は何が起こっても驚かないわよ。

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